カサンドラのとなりに

13

頼朝は、ウサコが素行のよろしくない叔父に金を無心されている、ということはひとまず新九郎や由香里には伏せておいた。たちも同様だ。そんなこと迂闊に言おうものなら誰がカッとなって気乗りのしない様子のウサコを追い立てるかわからないし、この件はあくまで自分主導で進めたかった。

頼朝が「社員寮」の件をしつこく聞いてこないので、ウサコはまた通常通りに戻ったけれど、ぽつぽつと言うことには、やはり叔父が無心に来る回数が増えていて、先日はとうとう給与明細を見せて、生活費にかかる分を差し引くとほとんど残らないのだと説明したけれど、会社にはあるはずだと言って聞かない状態らしい。

しかも実際あの家の名義は叔父のものであるらしく、彼が出て行けと言い出してしまったら祖母と母を抱えて家を探すか、2K程度しかないバイオレットの2階に移るしかないという。

だからさっさとうちに来ればいいのに……という言葉を飲み込みつつ、以来頼朝は毎日ウサコを送るようにしていた。送ったところで叔父は勝手に入ってくるだろうが、せめてその途中で買い物を手伝うなどすることでウサコの負担が軽減するならと、ウサコの送り届けは日課になっていった。

そんな頃のことだ。いつものようにウサコを送り届けた頼朝は、荷物が多かったので玄関先まで一緒に行き、恥ずかしそうなウサコには淡々と普段の様子を崩さないようにしながら、トイレットペーパーだの調味料だの、重くてかさばるものを運んだ。

すると、真っ暗で静かだった家の奥から、ぬっと人影が現れた。叔父さんだ。

明かりが灯っていないので誰もいないと思って大きな声で喋っていたのだが、どうやら叔父さんは明るいうちからテレビを付けっぱなしにしてコタツで寝ていたらしい。首筋をボリボリ掻きながらゾンビのような足取りで現れたので、驚いたウサコは飛び上がり、頼朝はついウサコを引き寄せて遠ざけた。

玄関先に置いてある物を見れば頼朝が荷物持ちをしてきたのは明白――のはずなのだが、叔父さんは頼朝がウサコを引き寄せたのを見るや、また眉を吊り上げてへの字口になった。

「専務さんよっ、あんた、あんな安い給料で雇っといて、その上、手まで出してんのかよっ」
「お、叔父さん、何言ってるの!」
「誤解があるようですが、私は何も――

叔父さんのよくわからない精神を逆撫でしても意味がないので否定した頼朝だったが、

「あんたねっ、金持ってるくせに、こんな女で安く済ませようなんて図々しいんじゃないのっ」

という一言を聞いて、頭が真っ白になってしまった。頼朝が久しぶりに「キレた」瞬間だった。

……こんな女ってどういう意味ですか」
「どうもこうもないよっ、いい年して嫁の貰い手もない、ブクブク太ったババアじゃねえか」
「あなたの、姪っ子さんでしょう」
「おうよ、可愛がってやった恩も忘れてからに、役立たずでケツの汚え女だよ」

後でウサコに聞いたところによると、この程度の罵詈雑言はもはや日常茶飯事だったのだという。それは叔父だけでなく、バイオレットに来る客からもしょっちゅう言われていることで、その分ショックは少なかったのだが、頼朝に聞かれてしまったことが何よりつらかったという。

しかし頼朝は違う。一瞬で頭に血が上った。

……訂正してください」
「あん?」
「北……ウサコさんはそんな女性ではありません。真面目で優しい、素晴らしい人です」
「はあ?」
「役立たずは可愛がった姪っ子に金をタカるあなたの方でしょう!」
「何だと!? もっぺん言ってみろい!」

吊り眉とへの字口をさらにきつくして叔父さんは顔を赤くしたが、そもそもがだいぶ小柄。対する頼朝は身長185センチ。襲いかかっては来ない。なので頼朝はウサコを力任せに抱き寄せると、ぼうっとする頭で言ってしまった。

「それに、嫁の貰い手はあります。私が貰うからです!」

言ってしまった。ご近所中に聞こえそうな声で、言ってしまった。

もう笑うしかない尊はこの件を「嫁に来ないか事件」と名付け、またにクッションで殴られていた。あんまりやりすぎると嫁ふたりが本気で冷たくしてくるので信長は我慢しているようだったが、本音では大笑いしたかった模様。兄弟などそんなものだ。

しかしこの「嫁に来ないか事件」は笑い話で済まず、まずはウサコが頼朝に対して以前の服従アルバイト状態に戻ってしまった。頼朝が自分に関われば関わるほど、ああして頼朝は厄介なことに巻き込まれるし、勢いでとんでもないことは口走るし、送らせてくれなくなった。

さらに「でっかい工務店の跡取り専務」がウサコを嫁にもらうらしいというセンセーショナルなニュースは叔父さんから母親祖母を経由してバイオレットにまで流れ込み、あれこれと話題になった挙げ句、最終的には「これでバアさんもおっかさんも、叔父さんも安泰だ」というところに着地した。

つまり、ウサコが玉の輿に乗ることになったので、その金で家族が楽をできるという話になっていた。

祖母など、離婚してこの方毎日ひたすら働いて苦労してきたけれど、これでやっと人並みの生活が出来ると近所にも言ってまわり、母もいっそバイオレットを畳んで家を新しく立て直してもらい、娘婿も招いて同居したらどうかなどと言い出した。

これには、実はこの地域での清田工務店、ひいては清田新九郎という人物の持つ社会的信用が高すぎるということが災いした。バイオレットにやって来る客は多くないし、メンツも限られるけれど、地元のおじさんおじいちゃんがほぼ100パーセント。新九郎を知る人がよく紛れていた。

ウサコは職場のことをペラペラと喋ったりはしなかったのだが、バイオレットの中で勝手に「あれ、清田工務店てあれだろ、あの大きな」だとか「おお、あの親方さんとこかい。そりゃすげえ」などと、新九郎を知る人々からもたらされる清田工務店評が先走っていった。

社長はアウディを乗り回してて、奥さんはいつも指にでっかい宝石があって、最近じゃ事務所と家をすっかり新しくして、末っ子の嫁が同居してるらしいけど、このご時世に働きもせず専業主婦だって言うし、その末っ子だってバスケ選手だって話だよ。バスケ選手なんて野球選手と違って儲からないだろ? それがみんなであのでっかい家に住んでるんだから、あそこは相っ当金持ってるね。間違いないね。

勝手な思い込みと誤解も含め、こういうことになっていた。

実際清田家は確かに金がある。あるが、それは全員の収入を合わせての話だし、むしろリフォームが完了した直後なので全員貯蓄がスカスカになっていたし、新九郎のアウディは中古だし、由香里の宝石はイミテーションだし、が働かないのは子育てと家事でそんな余裕もないからだし、信長は引退して現在月給制なので世代平均値というところだし、と、「言うほどではない」のが現状。

このとんでもない勘違いに焦ったウサコは何とかして誤解を解こうと必死になったが、逆に「自分ひとりだけいい目を見ようと思ってるのか」と叱られる始末。そして「こんなこと絶対頼朝に知られてはならない」と躍起になったせいで、清田家は誰ひとりこの大変な事態を知らないままだった。

だが、頼朝がその一端を知ることになったのは、3月も半ばに差し掛かり、今度はホワイトデーだ! と、もう白っぽければチョコレートでもクリームでも小麦粉でもなんでもいい手作りスイーツ祭が開催された直後のことだった。

ちらほらと暖かい日が混じるようになってきた頃のことで、昼休み明けのウサコと頼朝は眠気と戦っていた。新九郎たちは安全のために昼食後に昼寝を挟むらしいが、事務所組はそうもいかない。

「暖かいから余計に眠いよな……
「目を閉じるだけで効果があるそうですが、そんなことしたら本気で寝ちゃいますね」
「カフェインて実際、覚醒効果、ないよな」

そんな風に無理矢理目をこじ開けていた。すると、事務所のドアが開いてベルの音が鳴った。

「いらっしゃいま――
「よおーウサコおー」
「ちょっ、叔父さ、嘘、なんでこんなところまで!」

ウトウトしかかっていたふたりは一気に目が覚め、慌てて叔父さんを押し返した。母と祖母がいないので腹を減らした叔父さんがとうとう事務所までやって来てしまい、ピカピカの事務所と清田家を見てまたニコニコしていた。

ウサコは頼朝に促されてコンビニまで一緒に行き、食べたいというものを買い与え、そして駅に向かうバスを待って乗せて、ようやく戻ってきた。叔父さんは事務所まではタクシーで来たらしく、それでもう全財産がなくなったという話だった。金銭感覚が崩壊しているようだ。

「ねえ北見さん、だから……
「ダメです。私がここに住んだら、あれがお家の方に来るんです。叔父だけではないかもしれない」
「この家じゃなくて、社員寮は別にあるとでも言えば」
……だけどもう、事務所に来てしまいました。私が、辞めるしかありません」

頼朝のデスクの傍らで肩を落とし俯いたウサコの言葉に、頼朝はつい彼女の両手を取った。

「北見さん、それは違うでしょ。北見さんが辞めても何の解決にもならない」
「でも今日みたいなことはなくなります」
「おかしいでしょう。うちはあなたを必要としてるし、あなたもここが嫌ですか?」
「い、いいえ……辞めたくないです……

ウサコの目が赤く染まり、ポタポタと涙がこぼれた。

「八方塞がりで手段に乏しいことはわかる。だけど北見さんが辞めるのはおかしい。ありがたいことにうちは事務員さんを雇わないと回らない程度の仕事があるし、北見さんがよければ正社員の話、前向きに考えたいとオレも思ってた。前任の方のように、長く働いて欲しいと思ってる」

これは清田工務店の、そして清田家の総意である。これだけは間違いない。

「叔父さんの件は確かに問題だけど、北見さんが辞めても結局うちは困る。ものすごく困ります」

ひとり退職したくらいで仕事が回らなくなるような会社はむしろ危険なので辞めた方がいい――なんていうこととはまた別だ。ウサコと清田家はもうすっかり良い関係を築けていて、かつてのミエさんのように、ちょっとその境界線が曖昧になり始めていた。

……それから、自分でもいい加減しつこいと思うんだけど、大晦日の夜、助けてもらって本当に感謝してるんです。だから、今度は北見さんを助けたい。もう少し、考えてみませんか」

何も報いることがないまま辞められても困る。それも正直なところだった。

頼朝は鼻を啜り上げるウサコの両手をぎゅっと握り締めると、頑張って笑いかけてみた。真っ赤な目で頬を濡らしていたウサコは、何とか笑い返そうとしつつも、手を握り返し何度も頷いた。そして、最後にはつむじが見えるくらい、深々と頭を下げた。

ウサコも辞めたくなかった。こんな職場、二度と見つからない。前任の方のように、長く長く、ここで働きたかった。あの日、大晦日の日には弱々しくて頼りなかった頼朝の手が、今は力強い希望に思えた。この世界で唯一、自分を必要としてもらえる場所だと、そう思った。

何ひとつ人に誇れるもののない自分の、唯一の財産だと思った。

その一週間ほど後のことだった。

その間にも叔父さんがフラフラと突撃して来たのだが、だいたい時間は決まって昼過ぎで、ウサコの母と祖母が店に出かけてしまったので暇と空腹を持て余して尋ねてくるらしかった。なので頼朝は一計を案じ、その頃になると事務所を閉めてしまった。ドアには「外回り中」の張り紙。

そこにロールスクリーンを下ろしてしまえば、ウサコと頼朝のいるデスク周辺は見えない構造になっている。通常なら来客は殆どない時間帯だし、火急の用で飛び込んでくるタイプのお馴染みさんなら、新九郎やだぁ、または由香里の携帯の番号を知っている。困ることはない。

ついでに頼朝は「残業」を課し、17時を過ぎるとウサコをリビングに放り込んだ。これにはがにんまりと笑って「残業!」と言いながら一緒にキッチンに立ったり、ドラマを見たりして過ごさせ、22時頃になってやっと解放した。頼朝の車で帰って寝支度をしたら23時半、さっさと休んでしまえばバイオレットからも叔父さんからも逃げ切れる。

頼朝は実際に残業手当も付けたので、叔父さんにタカられた分も補填できて一石二鳥。

という中の、土曜の夜のことだった。

さすがに週末全てウサコを拘束することは出来なくて、このところ残業続きでちっとも店を手伝わないんだから今日は働け、と彼女はバイオレットに連行されていた。最近バイオレットは客の高齢化への対応で定額制昼カラを始めていたので、特に土日の昼間は手がいる。

清田家の方はまず頼朝が仕事関係でどうしても断れない相手に呼ばれ、花なんか咲いてないというのに花見をしてきた。尊も仕事の付き合いで寒い中を咲いていない花見。信長は早朝からちびっ子バスケ教室の準備と、ローカル局のスポーツコーナーの収録。マスコットと乱闘するだけの簡単なお仕事。

さらに、エンジュは結婚式に出席のためこれも早朝から出かけていて、新九郎と由香里も組合関係の集まりに出ていて、清田家は昼過ぎまでとおばあちゃんと子供しかいなかった。そこにまずは頼朝が帰宅、強い酒を飲まされたと言ってすぐに部屋で寝入ってしまった。次に二次会を遠慮してきたというエンジュが帰宅。こちらも疲れてリビングのソファにひっくり返っていた。

やがて新九郎と由香里が帰宅、ふたりも疲れて昼寝。夕方頃になって尊もヨロヨロと帰宅。この日は面白いくらいに重なってみんな昼寝をしていた。1番帰宅が遅かったのは収録が長引いたという信長で、こちらもマスコットキャラと3回も乱闘してきたのでヘトヘトになっていた。なので彼もシャワーだけ浴びて寝てしまい、はひとりで駆けずり回っていた。

それが一寝入りしたので腹が減ってきた……と続々と起き出してきたのは21時頃だっただろうか。今度はがヘトヘトになっていたので、エンジュと尊がふたりでキッチンに立ってあれこれと作っていた。普段の清田家なら、キッチンはようやく片付く頃である。

そんなわけで、珍しく遅い時間だと言うのに全員が揃って飲み食いしていた。

そこに突然、ガラスが派手に割れるような大きな音が聞こえてきた。

「何だ今の」
「事務所の方からじゃなかったか?」
「強化ガラスだぞ。車が突っ込んできたんならともかく……

昼間散々飲まされたというのにまた飲んでいる頼朝と尊も含め、男性陣が全員背筋を伸ばして腰を浮かせた。車が突っ込んでくるという可能性はゼロではない。まさかどこかのおじいちゃんがアクセルとブレーキを間違えて突撃してきたんじゃあるまいな。

「車が突っ込んできたらもっと大きな音がするだろ」
「加賀美さんが酔っぱらい運転で突っ込んできたんじゃねえのか」
「ちょっと見てくるわ」

加賀美さんは新九郎の馴染みのガラス屋さんである。事務所の強化ガラスも加賀美さんのところで頼んだ。新九郎の笑い声を背中に聞きつつ、頼朝はスリッパでペタペタと歩いていって、事務所に通じるドアを開けた。すると、小さな人影がウサコのデスクをひっくり返していた。

どう見ても、叔父さんだった。

――おい! 何してるんだ!!!」
「どうした頼朝!!!」
「エンジュ、を頼む!」

頼朝の怒鳴り声を聞いて新九郎と尊、そしてリビングに入ってきたばかりの信長が飛び出してきた。犬たちが狂ったように吠える。頼朝が明かりをつけると、そこにはなぜかニコニコと笑っているウサコの叔父さんがいた。響き渡る由香里の悲鳴、エンジュは慌ててと子供たちと犬をおばあちゃんの部屋に押し込め、自分はリビングのドアにへばりついて蓋をした。

しかし、小柄な叔父さんvs平均身長186cmの男4人である。叔父さんはすぐに信長と頼朝に取り押さえられた。見れば加賀美さんのところで調達してもらった強化ガラスはやっぱり無事。だが、同様にガラス製であるドアが外れて外側に倒れていた。工具も散らばっているし、叔父さん、ドアを外したらしい。

由香里は泡を食って警察に通報、ひとまず叔父さんは新九郎が持ってきた結束バンドでしっかり捕縛されて事務所の床に転がされた。しかしなぜかまだ薄ら笑いを浮かべている。それを見下ろしていた頼朝の肩を、新九郎の分厚い手が掴む。

……頼朝、見覚えがあるんだな? 誰だ」
…………北見さんの、叔父さん」
…………何だって?」

頼朝は言いながら片手で顔を覆い、音を立ててため息を付いた。

床に転がった叔父さんはその頼朝を見上げてへらへらと笑い、そして言った。

「専務さんよっ、100万くれよ、そしたらウサコはあんたにやるよ、オレも消えるよ、なっ、どうだ?」

頼朝、新九郎、由香里、信長、尊。親子5人はその叔父さんの笑顔に戦慄した。そんなことを言い出す叔父さんが気味が悪いのはもちろんだが、それ以上に、全員脳裏にいつものウサコが浮かんで、彼女の置かれた境遇というものを想像してしまったのだ。悲惨、その一言しか出てこなかった。

やがてリビングには子供たちの泣きわめく声が響き渡り、信長と由香里がすっ飛んでいった。も恐怖で真っ赤な目をしており、アマナを抱いた信長はそのままも抱き締めたけれど、彼の腕も少し震えていた。カズサを抱き上げた由香里も、震えていた。

「あんた社長さんだろっ、100万、いや80万でもいいよ、たくさん持ってんだろっ」

叔父さんはニコニコしながら、エビのように体を曲げたり反らしたりして新九郎の足元に転がっていく。だが、やがてパトカーのサイレンが聞こえてくると、例の吊り上がった眉にへの字口になった。お怒りのサインだ。呆れたことに、通報されると思っていなかったらしい。

「あんたウサコと結婚すんだろっ! そしたらオレはあんたの叔父さんだろうが!」

頼朝はもう真っ青な顔をしたまま動けない。新九郎は息子と叔父さんの間に入ると、しゃがみ込み、

「お宅さんに差し上げる金は1円だってないよ。あんたと親戚になるのもまっぴらだ」

そう言って叔父さんの胸倉を掴むとドスの利いた声を出した。

「二度とうちに関わるんじゃねえ。今度顔出してみろ、コンクリ漬けにして庭に埋めてやるからな」

それまでヘラヘラと笑っていたり吊り眉にへの字口になってみたり忙しかった叔父さんだが、新九郎の脅しを間近で浴びてついに黙ってしまった。への字口が緩み、小さく体を丸めてブツブツと文句を言い続けていた。新九郎は家では優しいじいじだが、外では怖いのである。

鳴り響くパトカーのサイレン、突き刺すようなパトランプの赤。

近所の人々の心配そうな野次馬は増える一方。子供たちもこの異常な空気を怖がって泣き止まない。そんな喧騒の中で、頼朝はめちゃくちゃにひっくり返されたウサコのデスクを見下ろしていた。引き出しが全部引っ張り出されて、中身が部屋中に散乱している。

まるでウサコのようだと思った。叔父さんに、めちゃくちゃにされてしまったような気がした。