星屑の軌跡

27

告白4

「そんなわけないだろ。その3人は全部親方の幼馴染で、ばあちゃんが一方的に疑ってただけだ」

どうにも背中が冷たいままなので、はその日の夜、信長とエンジュと晩酌していたところに頼朝を呼び出して聞いてみた――ら、事もなげにそう言われてしまった。いや、どっちかって言ったら気になってるのは3人の方じゃなくて「由香里さん」なんだけど。

親方世代以前に関しては頼朝が一番詳しいので幼馴染の3人の件はそんなところだろうが、問題はそこではないのである。しかも由香里が清田家に嫁いできた当時の美少女ぶりは相当なものなので、息子さんたちにはピンと来ないかもしれないけど我々はちょっと怖いです、という顔をとエンジュはしている。ハタチ当時の「由香里さん」は激マブなので説得力がありすぎる。

「オレは記憶ねえしな〜。家の中の様子とかどうだったん」
「だから前にも言ったろ。ふたりともここが部屋で、ほとんど出てこなかったんだよ」

現在信長家族部屋になっている場所が、以前は親方とおばあちゃんの部屋だった。信長が祖父と一緒に暮らしていたのは4歳までなので、ほとんど記憶には残っていない。祖父がこの部屋にいたことは覚えているが、一緒に遊んだりしたこともないので余計に記憶がない。

対する頼朝の場合は祖父が亡くなったのが小学5年生の時なので、ある程度は当時のことを記憶している。異様な記憶力を持つ頼朝だが、親や祖母が親方の病気に関することを子供たちに詳しく教えようとしなかったため、記憶しておくほどの情報がもたらされなかった。

「今で言うところの緩和ケアみたいな状態だったと思うけど、オレたちにはそういうの見せたくなかったんじゃないかな。しかもじいさんは末期状態のまま1年近く頑張ったから、亡くなった時はいわゆる悪液質ってやつで、子供心にゾンビみたいだと思ってたな」

しかしそれも棺の中でやっと安らかに眠っているのを見て知ったことだ。小学5年生当時の頼朝というと、ちょうど中学受験のために家にいる時間が少なくなり始めた頃だったし、余計に生きている頃の末期の親方の記憶は少ない。

「そんな状態の親方だったら、ゆかりんもお世話したとかそういうことはなかったの?」
「それこそじいさんのことは全部ばあちゃんが一手に引き受けてたからなあ」
「てかむしろ由香里ってそんなことしてる暇なかったんじゃないの、当時って」
「お前がまだ暴れまくってた頃だしな。まだミエさんもいなくて、だけど親戚は何人も同居してた」

女将は親方にかかりきり。ミエさんはいない。信長は幼稚園児。まだ新九郎が社長になる前で、身内を含めた従業員がわんさか住んでいた頃。とエンジュは遠慮なくゾッとして酒を煽った。由香里はそれを数年間ひとりで切り盛りしていたことになる。よく死ななかったな。

「さすがに夕飯の準備は由香里ひとりじゃ大変だから、そこはばあちゃんも手伝ってたけど」
「そういや人が少なくなるまではふたりで台所立ってたな」
「だけどそこまでだ。親方が由香里に懸想してるなんて余裕はなかったと思うけど」

だが、よりもエンジュが納得のいっていない顔で首を傾げた。

「じゃあおばあちゃんはなんでそんなこと思ったんだろう」
「まあ一応、親父に『いい女だから手放すな』って言ったらしいから、それだろ」
「それだけ? おばあちゃんてそんなに嫉妬深いの?」
……というより、ええと、これはオレの推測だぞ」

歯切れの悪い頼朝はエンジュの差し出すウィスキーを一口飲む。

「ばあちゃんの場合、じいさんが由香里に対してどうとかじゃなくて、親方の病気をきっかけに完全に『自分のポジション』を由香里に取られたっていうのもある気がするんだよな。もちろん親方の世話は自分ひとりでやりたかったんだから、その分それまで切り盛りしてた家のことは由香里と新九郎に丸投げしなきゃならないし、それは全部親方の病気のせいだから」

それは想像に難くない。とエンジュはうんうんと頷いている。

「それとゴッチャになってるんじゃないか? 親方の病気のせいで生活は一変、女将の座は由香里に明け渡さなきゃならないし、世界で一番好きな男は死を待つのみ。年々溌剌さみたいなものがなくなっていったのは覚えてる。昔はあんな人じゃなかったはずだ」

由香里の昔話でも、おばあちゃんは豪快できっぷの良い頼れる女将だった。だが、親方の死は女将から色んなものを一緒に持っていってしまったらしい。

「位牌をよこせって言い出した人が誰なのかは覚えてないけど、じいさんの葬式前後は毎日大人たちが揉めてたのも覚えてる。塾から帰ってくると新九郎と由香里が酒飲みながら毎日げんなりしてた。だからばあちゃんもそれで参っちゃったんじゃないか……と思ってた」

実際参っていたのだ。そうしてヨシちゃんが遊びに連れ出してくれるようになるまで、女将は親方の位牌と向き合うだけの日々を送っていた。何も興味がわかない、何も楽しくない。

「形見分けとか遺産とかは私も覚えがあるけど……めんどくさいんだよね」
「そういやそうだったな。すげえ話だったよな、家よこせだもん」
「それこそのお母さん参ってたからな。そこに付け入ろうとしたんだろうな」

背筋が冷たかったとエンジュだったが、頼朝は記憶している限りでは祖母が母親に嫉妬めいた言動を見せたことはないと言うし、実際ふたりもそんな様子を見たことはなかった。が嫁いできた当時はまだおばあちゃんも台所に立つことがあったけれど、由香里とふたりで一生懸命やっていた。

頼朝の言うように、親方の病気で生活が一変したことと、そのせいで由香里が新たな「女将」になってしまったことが混同しているのだろうか。おばあちゃんも80代後半、そんな記憶と感情の混乱があっても不思議ではない。

しかしの耳には、あの「由香里さん」がしばらくこびりついて離れなかったのである。

ツグミ同様、コハルが秋生まれなので、この年も年末年始は家族だけで静かに過ごそうかという話になっていた。それでなくとも子供は7人、赤ちゃんなのはコハルだけ、クリスマスやらお正月のイベント感は出してやりたいし、それだけで精一杯だ。

というか宇宙と彼方が増えたことで、お年玉を出さねばならない人数が5人になった清田家、じいじとばあばはともかく、親世代は深夜に「緊急お年玉会議」をこっそり開き、「年齢別支給額」のガイドラインを作った。自分の子供だけ増額などの措置は禁止、適用年齢は18歳まで。

そのガイドラインに従い、頼朝ウサコ、尊、信長、エンジュの4組がひとりずつに配り与えることになった。さらに現在最年長が小学校低学年なので金額が安くても構わないわけだが、これが中学高校と上がっていくととんでもない額になる。それに備えて毎年積み立てをしていくことも決まった。

「エンジュだけ負担が大きいと思うんだよ……
「だから積み立てなんでしょ? 大丈夫、のお小遣いは減額しないから」
「いや、ちょ、そんなつもりじゃ」
のはお小遣いじゃなくて正当な報酬だからね」

近い内にクリスマスプレゼント用と誕生日プレゼント用のガイドラインも作らねば……と真顔の会議がこっそり行われた翌日、信長が出張中なのでとエンジュは細々と晩酌をしていた。信長の方も沢嶋さんと一緒なので、確実に飲んでいるはずだ。

すると、そこに電話がかかってきた。エンジュの携帯の着信音がそっと鳴る。時間は21時半、子供たちは寝てしまったのでエンジュは慌てて携帯を取り上げると、そのまま固まった。

「エンジュ? 大丈夫?」
……慶太郎だ」
「えっ」

エンジュの手が伸びてきたので、は強く握り締めてやる。

――もしもし。うん、平気。どうした?」

エンジュの声はいつもの、普段の彼の声と何も変わらなかった。だが、が見つめるその横顔は少しだけ青ざめていて、指先からはぬくもりが逃げていく。はエンジュとの距離を縮めると、そっと肩を抱いた。そのせいで慶太郎の声が聞こえてくる。

低くて丸みがあり、体つきのしっかりした大人の男性を思わせるなかなかの美声だ。実際に会ったことはないし、写真で見たことがあるだけだが、は「スポーツ選手を引退して芸能人になった人みたい」という印象を抱いていた。

「ずっと忙しくて報告できなかったんだけど、実はオレ、離婚したんだ」
……は?」
「というか、実はもう何年もすれ違ってばかりでさ。忙しくて届けを出したのは今年なんだけど」

エンジュの喉が鳴る。そんなことはとっくに知っているけれど、それを悟られてはならない。

「だって、あんな、仲良かったじゃん……
「独身のお前にはわからんだろうけど、夫婦ってのは色々あるんだよ」
「それはそうかもしれないけど、って、それじゃ、家は」

誉の話しぶりでは、慶太郎は実家の隣の家をそそのかして転居させ、その土地を買って家を建てた――らしい。子供は欲しくないと考えていた誉の気持ちはいつか変わると思い込み、家族で暮らせる規模の家を建ててしまった、らしい。だが子供は作られることはなく、誉も出ていった。

「そのことも含めてまた事情が変わってきたから電話したんだ」
「オレは実家のことは別に……
「まあそうだろうけど、一応家族なのに黙って勝手に進めるわけにもいかないだろ?」

一応。朗らかに笑う慶太郎の声に、の指先も少し冷たくなってきた。

「軽薄に聞こえるかもしれないけど、オレ、再婚考えてて」
「えっ、早」
「だから何年もすれ違ってたって言ったろ。今度の相手とも1年になるよ。それで、実はその相手って、秋山なんだよ。覚えてるか、バス停の向こうの大きなマンションにいた」

エンジュは覚えていなかった。慶太郎の小学生の時の同級生らしい。

「それで、向こうは3年前に離婚して実家に帰ってきてて、小学生の男の子がいてさ」

エンジュの手が微かに震えだした。

「いい子なんだよ。野球やってて、ガキ大将っぽいっていうのかな、最近では珍しく腕白な子でさ。この間も同じクラスの子と取っ組み合いの喧嘩してきたくらい元気な子なんだよ。まだ小学生だからか警戒心もあんまりなくて、すっかり仲良くなっちゃってさ」

慶太郎のことはエンジュから話を聞いただけのだが、それでも彼の声を聞きながら「理想的な子供だな」と思った。誉との間に生まれてくるはずだった完璧な子供。血は繋がっていないけれど、血が繋がった子供が生まれてくることはないのだから、それならば――

「秋山も実家暮らしが肩身狭いらしくてさ、家ならあるし、じゃあ結婚しようかって話になってさ。引っ越しも全部徒歩で済む距離だから肩身狭くても実家と離れなくていいし、トントン拍子に話が決まってさ。再婚同士だから大袈裟なセレモニーはやらないけど、あ、だからお祝いとかそういうのは間違ってもいらないからな。昔から親も知ってる家の子だし、顔合わせとかもやらないから、その辺は心配しなくていいぞ。お前が仕事忙しいってのは向こうにも言ってあるし」

エンジュの父親や、誉の話を聞いていなかったら、実家と関係がよろしくない弟を気遣う兄の心配りに聞こえただろう。もしかしたらエンジュの父親や誉の話は全部嘘で、両親とうまくいかない弟を気遣う兄、という慶太郎が真実なのかも知れない。だがそれは、確かめようがない。

……それで、寿一、オレ、今度はちゃんと家庭を持って生きていきたいんだよ」
「う、うん……

誉との10年以上の関係は、「家庭」ではなかったというのだろうか。演技をするのも忘れて口ごもるエンジュの肩を抱く――というよりはもう怖くて抱きついてしまっているの喉が鳴る。

「だから、申し訳ないんだけど、今から、遺産を放棄してくれないか」
「えっ、い、遺産?」
「親父とお袋の面倒はオレが見るし、お前は今まで通り実家に関わらなくていい。だからその代わり、オレたちが親から受け継ぐものは全てオレに任せてほしい。と言っても、家くらいだけどさ」

また慶太郎は朗らかに笑った。実家と関わりたくないゲイの弟に「面倒なことは全部引き受けるから、その代わり遺産は譲って欲しい」という提案をしているように聞こえる。親にカミングアウトも出来なくて、自然体の自分を受け入れて貰えそうにない弟の手を煩わせることはしないから――そんな風に。

しかしどうしてか、には慶太郎が遠藤家からエンジュを締め出そうとしているように聞こえた。これを先入観と言うんだろうか。エンジュや誉の話を先に聞いているから、そんな風に思うだけなんだろうか。この慶太郎の真の「目的」は何だというんだろう――

「約束、してくれないか」
……もちろん、全部兄さんのものでいいよ」
「そ、そうか、すまんな」
「そんなこと。オレは、外に出て勝手気ままに生きてるんだし、そのくらい」
「ありがとう、恩に着るよ。オレが欲しいんじゃなくて、息子に残してやりたくてな」
「そうか、うん、そうだよね。ええと、おめでとうって言えばいいのかな」
「ははは、ありがとう。お前はどうなんだ? 渋谷区なら結婚できるようになっただろ」
「結婚ていうのかな、あれ。でも今ちょっとそれどころじゃなくて」
「まあでも、仕事忙しいのはありがたいことだよな」

慶太郎はだいぶ機嫌のいい声でオレも忙しいんだよと仕事の話をひとしきりすると、ひときわ明るい声で「じゃあな。約束、忘れるなよ」と言って通話を切った。

携帯をテーブルの上に戻したエンジュは緊張で強張っていた肩を落とし、に抱きついた。

……元々遺産なんか、いらないんだよ」
「うん、そうだよね」
「親が死んだ時に言ってきたって、オレは放棄してたと思う。形見もいらない」
「でなかったら、ここで暮らしてないよね」
「ほんの少し、数えるほどしかない家族と楽しかった記憶だけ、オレはそれだけあればいいんだよ」

それはまだ、エンジュが同性愛を自覚する前の、そして「男らしくない」ことを両親に疎まれ始める前の僅かな思い出であり、エンジュにとっては必要充分な「家族」の姿だった。それ以上はもういらない。何もかも良い思い出ではないから。今エンジュにとっての「家族」は寿里であり、であり、信長であり、清田家の人々だから。

血の繋がりがなくても、それは確かに「家族」だから。

「遠藤家なんか慶太郎にあげる。オレは寿里とと信長がいれば、それでいい」

慶太郎の申し出はもちろん同意だ。ほしいと言うなら全てくれてやる。

……だけど、今、思っちゃった。なんでオレの親と、兄は、こういう人だったんだろう、オレ、なんでこんな家に生まれたんだろうって、思っちゃったよ。情けないね」

エンジュを抱き締めながら、そんなことない、と言おうとしただったが、テーブルの上のタブレットが軽快な音を立てたので顔を上げた。引き寄せてみると、信長からビデオ通話である。時間は22時、一体こんな時間にどうした、と通話ボタンを押すと、

ちゃんエンジュくん久しぶりー!」
「さ、沢嶋さん!?」
「おっ、やっぱりお前らも飲んでたな!? ね、言ったでしょ、亭主のいぬ間に嫁がふたりで」
……ふたりとも相当酔っ払ってんな」
「亭主って。昭和じゃあるまいし」

一応出張であり明日も現地で仕事があるというのにこのベロベロ具合はどうなんだろうか。緊張と苦痛に身を寄せ合っていたとエンジュは揃ってタブレットを覗き込みつつ、気が抜けて冷淡なツッコミを入れた。こっちは怖い思いしてたっていうのに楽しそうだなあんたら。

「いやオレね、実はちょっと心配してたの。ほら、5パーセントはヘテロなわけだし!」
「それね、それ実際1番心配されるんスよ。オレも大丈夫かなって思ってたことありました」
「でもほんと、信長の言う通り、嫁なんだね! どっちも!」
「それが最近エンジュがすっかり嫁の顔するようになっちゃったんでね、オレ肩身狭くて」
……録画しときゃよかったなこれ」
……ふたりともあとで覚えてろよ」

信長と沢嶋さんはなんだかやけに楽しそうで、赤い顔をしてヘラヘラ笑いながら益体もないことを言ってはまた笑っている。一方嫁ふたりはそんな酔っ払いを画面の中に見ながらため息をつく。

……まあ、気は紛れたけどさ」
「大丈夫?」
「うん。やっぱりオレ、この生活楽しいなって、今思った」

が柔らかく微笑むエンジュの背中を擦っていると、タブレットの中の酔っぱらいがレンズに顔を寄せてきた。ふたりとも本当に顔が赤い。何時から飲んでたんだ。

「おいこら、オレのいないところでチューするなよ」
「ふたりとも、そういうのは隠れてやろうな!」
「隠れててもダメっスよ! おい、お前らがチューしていいのはオレだけだかんな!」
「いい加減にしなさい酔っ払い」
「ねえねえこのまま飲もうよ。忙しくて中々時間作れないしさ」
「いいっスねー! 、エンジュ、ちょっと付き合ってくれ」

タブレットの中の酔っ払いふたりは上機嫌だ。おいおい、と突っ込んでいたとエンジュもつい笑ってしまう。さっきまでのがっくりと気持ちが落ち込む感じはもうしない。酔っ払いふたりには少し呆れるが、それに付き合ってもいいかなと思えてくる。

、オレ明日帰るの19時頃になると思う〜」
「はーい。エンジュ、氷まだある? 足りなかったら……
「沢嶋さあーん! 嫁が冷たいー!」
ちゃんちゃん、信長ね、ほんっとにちゃんのこと好きだから!」
「はーい。あ、ごめん、カーテン引いてなかったね」
「信長ー! 信長の嫁が冷たいー!」

タブレットの向こうの酔っ払いはいよいよへべれけ、それを軽くあしらいながら、は最近ラムが好きなエンジュになんちゃってボストンクーラーを作る。信長部屋のリビングには厚手のカーテンが引けるようになっていて、大声で騒いだりしなければ子供たちも起きない。

へべれけふたりの声が大きいので、はタブレットの音量を下げ、スタンドに立てかける。向こうでは信長のスマホを使っているらしく、居酒屋と思しき背景に真っ赤な顔が出たり入ったりしている。

は自分でも好みの酒を作り、戻ってきたエンジュにボストンクーラーを差し出すと、ぴったり並んでソファに腰掛けた。亭主は酔っ払いながらくっつくなと言うが、くっつかなければモニタに入りきらない。というかへべれけふたりはもうほとんど見ていない。

シャツの胸元を遠慮なく開いている信長の乾杯に合わせて、とエンジュもグラスを打ち鳴らす。

、これからも、一緒にいてね」
……当たり前じゃん。家族なんだから」
「えへへ、そうだね、家族だ」

慶太郎が本当に弟を疎んじてあんな連絡を寄越したのだとして。本当に弟を遠藤の家から遠ざけようとしたのだとして。そしてエンジュと誉の話が真実だったのだとしたら。

両親や兄が彼をいらないというなら、エンジュと寿里は、私が、私と信長が、清田家が貰おう。

あとで返せと言ったって、もう二度と渡さないからな。

エンジュの柔らかな笑顔に目を細めつつ、は黒い炎が燻る腹を撫でた。