ビー・ア・ヒーロー

7

「自分から連絡を寄越すとはいい心がけだな」
「どうせ話さなきゃならないならさっさと済ませたいだけだ」
「あれ、怒ってんのか?」
「いや、単にオーバーヒートしてるだけ」
「オーバーヒート? なんだよオフショル女子とヤれたのか」
「口を慎め。てか事後だったらこんなにテンション高いわけないだろ。気持ちよく寝てるわ」

深夜2時、健司は4畳半の和室で壁に寄りかかり、乾ききっていない髪にタオルを引っ掛けたまま花形に電話をかけた。深夜に文字で確認を取りもせずにかけたが案の定花形は起きていて、休みに入る前と何ひとつ変わらない淡々とした声をしていた。健司のオーバーヒートがまた少し冷める。

「はあ、そんで黒ずくめんなって尾行してきたのか。オフショル女子といい感じになっちゃって、ヒーローごっこにも感銘を受けるところがあるし、危なくなったら走って逃げればいいやって、そういう軽い気持ちで。バカかお前は!!!」

しかし花形は怒鳴りつつも、初日の報告の時よりは気楽に受け止めているようだ。まあ、済んでしまったことはどうしようもない。ジャスティス7に加入初日、健司は監視と尾行の任務に出て、結局バトルに巻き込まれてしまった。なので全身オーバーヒートだ。

「まさかと思うけど怪我とかは……
「それは何も。ていうかオレ喧嘩したことないけど、普通の人って動きがノロノロしてるんだな」
「まあそりゃオレらと比べりゃ誰だってノロノロだろ……
「てかオレたちあんなに毎日練習してんのに、現場班もけっこう早くてびっくりした」

伊織支給の装備に身を包み、健司は現地で勘兵衛とペアになって物陰に潜んでいた。新入りなのでリーダーと一緒の方がいいという判断だった。蒸し暑い真夏の夜に肌を覆い隠した装備は不快だったが、それよりも緊張の方が強く、滴る汗を拭いもせずに待つこと20分、伊織の読み通り犯人が現れた。

犯人は20代から30代くらいの男性3人、物音も立てずに寺院の前に現れると、ポケットや紙袋からスプレーを取り出し、あろうことか山門に向かって噴霧し始めた。街の中にひっそり佇むこじんまりとした寺院だが、その山門は薬医門と呼ばれる様式で、その木材の色合いなどからして長い年月を大事に守られてきたものに違いなかった。健司ですら怒りを感じたが、その隣りにいた勘兵衛はぎゅっと拳を握り締めて耐えていた。

深夜の街角、通りかかる人も車もなく、現場班が見守る中、計7本のスプレーが消費された。犯行が長引くなら、その間に通報すればあるいは現行犯逮捕が出来るのではと千秋が提案をしたが、伊織と勘兵衛は「通報したらパトカーが来る。車だと現場は一本道だし、夜中なら車が来たらすぐにわかるから絶対逃げられる」と言うし、それは例の社長さんも同意見だった。

「まあ、それはわかる。てかそういう話聞いたことある。通報しても間に合わないって」
「背後からだけど動画も撮れたし、そのまま3人で帰るから後を尾けはじめたんだ」

尾行は現場の勘兵衛の指示と、本部の伊織の判断により、先回りをしてみたり予測を立てたりしつつ、途中までは順調だった。3人は住宅街の入り組んだ奥地へと進んでいくので、犯行現場から遠くない場所に最低ひとりは住んでいることは間違いないと思われた。深夜の犯行帰りだからなのか、喋る声も聞こえず、ただ一定の速度で歩いていく。

だが、ある地点で急に足を止めると、3人は走り出した。勘兵衛は菊千代と七郎次に追わせると、回り道で先回りが出来そうだという本部の指示に従って道を逸れた。

ほんの数十秒後、イヤホンに菊千代の声が炸裂した。

「えっ、ほんとに? 本当に女を襲ってたのか?」
「そう。しかも犯人のひとりの隣の隣の家に住んでる人だった」
「マジか……起こってるんだな、本当に、そういう事件て……

先行して走って追いかけていたのが菊千代と七郎次だったことは、幸運であり不運でもあった。

「七郎次って確か女の子だよな?」
「だけどおそらくリーダーの勘兵衛や伊織の正義感を一番真に受けてて、キレやすい」
「それとヤンキーっぽい子か。命賭けられるとかいう」
「どっちも沸点が異常に低いんだと思う」

ふたりは女性に乱暴を働こうとしていた3人に襲いかかり、ひとまず引き剥がした。だが、恐怖にパニックを起こしていた女性が、七郎次が女性だということに気付くと物凄い力でしがみついて離れなくなってしまった。そこに到着してしまったのが健司と勘兵衛。

「オレたち、ちょうど犯人が逃げようとした方向から来ちゃったんだよ」
「突然黒ずくめに襲われたから、犯人たちも怖かったんだろうしな」
「平八とリンがなかなか来なくて、だから結局オレもひとり相手することになっちゃって」

だが、恐怖感があったのはそこまで。健司が相手をした犯人のひとりはパニックを起こしていたが、ノロノロしているので普段の要領で先を読んで躱したり進路を妨害しつつ、背後に回って羽交い締めにし、道に倒して両手を押さえつけると制圧できてしまった。なのでその犯人のみ、怪我なし。

「他のふたりは?」
「勘兵衛の方はお互い軽い怪我。ちょっと殴り合ったらしい」
「もうひとりは無事じゃなかったんだな」
「犯人の方が大暴れでな……

徒手空拳で菊千代と互角に戦える相手ではなかったのだが、一番ひどいパニックを起こした犯人のひとりは周辺の民家に置いてある植木鉢や自転車を投げつけるなど、とにかく手がつけられなかった。終いには竹箒を武器に殴りかかってきた。

「背後に被害者の女性と七郎次がいたから、菊千代はそれを食らい続けてて」
「笑い事じゃないけど、命賭けられるは嘘じゃなかったんだな」
「やっと追いついた平八とリンが取り押さえるまで大暴れだよ」

こうなってはやむを得ないので、本部は社長さんと住職を叩き起こして通報。社長さんは自宅が離れているので、住職だけが押っ取り刀で現場に到着した。そこでやっと近所の人々が顔を出し、住職から事情を聞くと結束バンドやビニール紐で犯人らを拘束し、後は任せろと健司たちを逃してくれた。

本部に帰還後、社長さんから連絡を受けたところによると、被害にあった女性はパニックが収まらずに病院に搬送。なのでそもそもジャスティス7のことはろくに記憶もなく、犯人たちだけが「黒ずくめの連中に襲われた」と喚くも、犯行現場の近所の住民たちが口を揃えて「確かに黒っぽい服の若者が助けに入っていたが、みんな混乱していたし、気付いたらいなくなっていた」と言うので、通報によりやって来た警官はそれを信じた様子だったそうだ。

社長さんはそれに乗じて落書き事件も説明し、様子を見に来たところだったとしれっと嘘をついた。なので犯人たちの所持品を調べてみたらスプレーが大量に出てきたので、そちらも解決に向かいそうだ……とのことだった。ただし住職の案ではしっかり諭したのちに落書きを清掃させるつもりでいたようで、どのみち塗料の除去には少なくない費用がかかることになってしまった。山門に至っては修復可能かどうかもわからない。

「まあ、落書きに関しては尾行の意味はなかったけど、不幸中の幸いてとこか」
「て、オレも思ってたんだけどな」
「なんだよ、まだ何かあるのかよ」
「本部に戻ったら勘兵衛とみちるがブチ切れ」
「なんで」
「落書き現行犯で確保出来ていたら、そもそも女性は襲われなかったって」
「いや、まあ、そうなんだけど〜」

察しのいい花形は電話の向こうで呻いた。勘兵衛とみちるは「女性は無事じゃない。明日になれば忘れられる事件じゃない。彼女はこれから長い時間を苦しみ続けるかもしれない。これは『未遂』じゃなくて、完全に暴力事件だ」と怒鳴り、勘兵衛は装備をソファに投げつけて肩で息をしていた。

しかし証拠映像の確保と尾行は住職らの「もし犯人が若者なら大事にしないでやりたい」という善意であり、ジャスティス7も基本的にはそれを支持していた。勘兵衛も千秋の「犯行中に通報すればいいのでは」という意見には絶対に逃げられるからと反対していたくらいだった。

「あとでにも聞いたんだけど、とにかく勘兵衛と菊千代と七郎次が頭に血が上りやすいんだ。勘兵衛も最初は尾行と証拠確保で納得してたんだけど、マジで取り返しの付かない山門へスプレーし始めた時点で声をかけ、拘束すれば被害は最小限で済んだんじゃないかって」

しかし今回の依頼主にあたる社長さんはジャスティス7の安全も考えて尾行を選び、住職も犯人が若者なら警察沙汰にしたくないとの思いがあった。善意が思い切り裏目に出て、結局かなりの修繕費用の発生と仕事帰りの女性に深い傷をつけることになってしまった。

「別にオレは……あいつらの正義ってものを手放しで称賛したいわけじゃない」
……わかるよ。でもお前もどっちかっていうと、そういうの許せないだろ」
「そこまでじゃないと……思ってるんだけど」

だが、ジャスティス7加入初日、健司にだけは「いいこと」があった。

本部に帰還し、菊千代の手当でドタバタしていたのだが、それをオーバーヒートした状態で眺めていた健司のところにがやってきて、大丈夫かと声をかけてくれた。怪我がないのはわかっているが、いきなり現場でバトルすることになってしまった健司のメンタルを案じたのだろう。

恐怖を始め、苦痛はなかった。結果的に大きな被害だけが残ってしまったことは悔しいが、それ以外の点では思っていたよりフラットな精神状態だった気がする。監視のときでもバトルのときでも。なのでそれは素直に話したのだが、それでも全身のオーバーヒートは残っていた。頭が溶けそうだ。

なのでつい、「ハグしてほしい」と言ってしまった。はそのまま強く抱き締めてくれた。

長くそうしてはいられなかったけれど、もしもっとずっと抱き合っていられたなら、こんな目の回りそうなオーバーヒートはすぐに治まった気がする。帰還後、健司の落ち着かない心の中に影を落としていたのは「怒り」だったから。

この怒りは正しい怒りだ。そんな風に感じたり、いや待てこの怒りはやがて暴力に繋がる感情のはずだと思い直してみたり、自分で自分の感情を持て余したまま林田家に戻り、シャワーを浴びたが、どうにもまだ頭の天辺から湯気が出ている気がする。

……お前の中にも、そういう感情はあるんだよ、元から」
「正直、気持ちのいいものじゃない」
「普段はそれが試合の時の爆発力のエネルギーになってるはずだけどな」
「それってなんだか体力持て余して喧嘩や破壊で発散してるヤンキーみたいじゃないか?」
「オレは遠からずだと思うけど。発散する種類が違うだけで」
「そんなものと一緒にされたくない」

正直に答えた健司に花形は鼻で笑った。

「お前は真面目過ぎるんだよ。奇怪な人間とは無縁の人生を送ってきて、周りにもそういうやつはいなくて、だから何も読み取れない相手だと先手を打てなくなる。先手を打てないとどんなセオリーに当てはめればいいのか考えてしまうから一瞬出遅れる。そういうことの積み重ねが結局自分の背中に重いものを背負わせてしまう。重すぎれば歩けなくなる」

花形の言う意味はわかる。そういう気質を持っている自覚もある。

こうして花形と話していると、まるでもうとっくに「以前の自分」を取り戻せている気がするのだが、電話を切った瞬間、この何もない街の誰もいない片隅で疲れ切ってへたり込んでいるだけの自分を強く感じてしまう。そのせいかどうか、自宅を恋しく思った。

そして、この林田家に来て初めて、バスケット部に戻りたいと思った。

「転地療養というにはちょっと荒療治だったかもしれないな。お前の中のそういうドロドロしたものを和らげてくれる女の子、怒りと正義を混同しそうになってる連中、現実に存在するクソ野郎、その中でお前は何を見るんだろうな」

翌日、少しだけ寝坊して目覚めると、平八はまだぐっすり、叔従母さんだけが台所にいて、野菜がたっぷりの味噌汁と卵かけご飯を出してくれた。飾り気のない優しい朝食が全身に染み渡る。

「昂ちゃんたちと仲良くなれた?」
「えっ、ああ、まあ、たぶん。まだちょっと慣れないけど」
「あんたに比べたら、この辺の子たちは世界が狭いし、その分子供っぽいよね」

叔従母さんにはそう見えるのだろうか。健司自身の目からは自分の方が世界が狭いように思える。どれだけ複雑に感じたところで、決まった面子で決まったルールの元で決まった時間内に点数で勝敗を決するだけ。ジャスティス7が首を突っ込んでいる危険な現実に比べたら平和で秩序の保たれた安全地帯だ。

かといって、それのどちらが正しいかだとか優れているだとか、そういう比較は無意味だと思った。

「そんなこと……。オレはいつもバスケのことしか考えてないようなやつとばかり過ごしてるから、色んな人の話とか、考えてることとか、聞けるのも面白いよ。菊……如人くんみたいな子とは話したこともなかったし。ええと、志乃ちゃんみたいな子も周りにいないから、刺激は強いけど、楽しいよ」

嘘ではない。叔従母さんが心配しないよう言葉を選んでいるだけで、今朝になってみるとジャスティス7という未知の存在には好奇心という点で大いに惹かれるものがあるのだという実感が湧いてきた。彼らの活動にばかり目が行きがちだが、それ以前にメンバーそれぞれの個性が強いので興味は尽きない。

「それならよかった。ま、確かに初日に比べたら元気そうな顔になってきたもんね」
「えっ、そう?」
「そうよ〜。初日なんかずっと目が死んでたもん」

自覚はなかったけれど、自分は少しずつ回復してるのかもしれない。そう思えるだけで気が楽になってくる。健司は味噌汁を流し込み、シメにキュウリの浅漬を口に放り込む。そう、これは確かのおばあちゃんのお手製とかいう。また届けに来てくれたんだろうか。

「ああ、まあおばあちゃんのも美味しいけど、これはが作ったやつ」
「えっ、そうなの? 本人がおばあちゃんのだって……
「んふふ、照れてるんじゃないの」

普通に美味しいキュウリの浅漬だと思ったが、女子にとって漬物を作っているというのは知られたくないことなんだろうか。すると叔従母さんが身を乗り出してニヤリと目を細めた。

「てかもしかして健司、のこと気になってる?」
……え!?」
「いい子よ〜! 真面目だし、面倒見がいいから甘えさせてくれるかも」
「えっ、いやオレは別に!」

大いに焦る健司だったが、玄関がカラリと開いてそのの声が聞こえてきた。

「ほら、噂をすれば。私今日は用があって出かけるから、ふたりでゆっくりね」

振り返れば重ねたタッパーを手にしたが「おはよー」と笑顔。

叔従母さんにすらバレるほど顔に出ていたのだろうかと思うと全身から火を吹きそうだ。せっかくオーバーヒートが治まったというのに、昨日のハグがありありと蘇ってきて健司の脳内を駆け巡る。

「お、おはよう」
……もしかしてまだ寝てんの歩」
「と、思う」

だからいつも始業式の日は遅刻ギリギリなのよねー! と笑う叔従母さんにタッパーを預けたは勝手知ったる台所で麦茶をふたり分用意して戻ってきた。とふたりきり、ということにはまだ少し緊張もあるが、彼女と話していれば自分の回復はもっと早く進むのではと思えた。

するとエプロンを外しながら叔従母さんが顔を出して首を傾げた。

「てか、私昼過ぎまで帰れないかもしれないから、お昼頼んでもいい?」
「いいよ。何にすればいいの」
「牛丼用意してあるから、温めるだけで大丈夫。歩にもちゃんとやらせてね」
「わかった。今日も伊織のとこ行くかもしれないけど、いい?」
「いいけど、夜食べるのかどうかは早めに決めておきなさいよ」

の「はーい」という軽快な返事を背に叔従母さんは身支度のために居間を出ていき、すぐに出かけていった。途端に家の中が静まり返る。平八が起きてくる気配もない。というか昨夜は少なくとも就寝は3時頃だし、今は朝9時。夏休みの高校生が起きてこないのは無理もない。

健司はと一緒に広縁に移動すると、それぞれ柱に寄りかかって腰を下ろした。

……昨日のこと、もう平気?」
「たぶん。昨日も怖いとかそういうのはなかったし」
「千秋が、健司が一番正しいって言ってたよ」
「現場班、カッとなりやすいよな」

菊千代の件はともかく、勘兵衛は健司と同じように動きを封じるだけで済んだはずだ、と千秋は思ったらしい。だがイヤホンから聞こえてきた菊千代の「女の人が襲われてる」という言葉を聞き終わらないうちに勘兵衛は走り出し、現場に到着した時には完全に頭に血が上っていた。

「健司にも、頭に血が上るような時ってあるの?」
……試合の時には、あるのかもしれない。自分では冷静なつもりだけど」

例えば負けてしまった時。表に出さないだけで、心の中が燃え盛るような悔しさでいっぱいになることなら何度も経験がある。それを「頭に血が上る」という状態と同じに考えていいものかどうか、それは少し自信がなかった。

「いつも、寝る前になると、よく分からなくなるんだよね。昨日みたいな事件の時は特に」
「結局みんなが傷付いて終わっちゃったよな」
……あの犯人たち、そんなに重い罪に問われないかもしれないって、伊織が」

今回の場合は通行人に襲いかかったという件も重なっているわけだが、菊千代と七郎次が駆けつけたので、女性は3人の男性に物陰に引きずり込まれただけで終わっている。衣服や所持品に損壊はなく、怪我はふくらはぎを擦りむいた程度。果たしてそれは重大な罪として扱われるかどうか。

「もしあのお寺の門が歴史的に貴重なものだったりしたら、刑務所に入るほどの罪になることはあるらしいんだけど、女の人を物陰に引っ張り込んだだけじゃ罪にならないかもしれない。それを考えると、みちるたちが激怒するのもよく分かる。あの女の人はきっとずっと怖いと思う。一生怖いかもしれない。だけど……現場班の子たちの強い怒りが、怖くなる時があって」

菊千代の怪我の手当よりもが健司のもとにやって来たのも、そのせいだったんだろうか。伊織みたいになってほしくない。そうは言っていたから。健司が怒りに飲まれてほしくないと思っているらしいから。

「健司、ジャスティス7無理だなって思ったら、遠慮せずに辞めてね」
……そんなに長い間、いられるわけでも、ないし」
……そうだったね」

健司を伊織のようにしたくないと思うものの、は健司がどんなに長居したとしても夏休みの間だけの旅人であることを忘れていたようだ。健司はいずれ高校競技に戻らねばならない。そして華々しい舞台へと返り咲かねばならない。それを失念していたらしい。

熱風が吹き付ける窓ガラスはきっちり閉じられていて、エアコンで冷やされた広縁は明るいけれど冷たかった。どこか遠くでチリンと風鈴の音がする。何もない街も林田家もジャスティス7もも、全ていつか覚める夢なのだ。健司は今更のようにそれを思い出し、また気が遠くなった。