エバー・アフター

11

帰り道の要所要所で連絡が来ていたにも関わらず、赤木が帰ってくると美須々は飛び上がるほど驚いて、慌てて鍵を開けた。ただでさえ狭い玄関にスーツケースが置かれているので、赤木はカニ歩きになって入って来た。

「これ、ここじゃ困るだろ。上げててよかったのに」
「いえその、実はあの後有料トイレに隠れていたので汚いですし、重いし」
「除菌シートで拭いて、下に何か敷いておけば平気だ。ちょっと待ってろ」

アパートとは言うが、この部屋は古くて少し変則的な間取りの単身者用集合住宅である。2メートル近い身長のせいで一般的なワンルームでは色々不便が多すぎた。赤木自身は部屋を借りなくても寮でよかったのだが、晴子が寮は気軽に遊びに行かれないから嫌だと言い出したせいで、この部屋に住むことになった。

壁際にむき出しで作り付けられている洗面台の棚から除菌シートを取り出すと、赤木はスーツケースを引っ張りあげた。慌てて美須々も手を貸すが、さすがに力がある。重いスーツケースを小さなキッチンの前に横倒しにすると、キャスターを除菌シートで丁寧に拭いていく。

「弟……周防は大丈夫だったのか」
「あっ、ごめんなさい、さっきここに来ました。その、怪我をしていたので」
「怪我? 平気なのか、もうすぐ予選だろう」
「はい、動くのには問題ないようです。そのことで今学校に行っているそうですし」

美須々はの件も含め、東京駅で分かれてからのことを説明した。と美須々の道中はともかく、周防の大立ち回りには赤木も改めて驚く。しかも今年3年生で副主将でインターハイのかかった予選の一週間前だというのに、ずいぶん無茶をした。

「それにしても、お兄ちゃん、人格者なんじゃなかったのか。様子が変だったけど」
「それが、今朝、いきなり豹変したんです。周防とふたりで待ち合わせて移動を始めたら、別人のようになって」

だから周防は険しい顔をしていたし、美須々は怯えたよう顔をしていた。そもそもが東京駅まで送ったらそのまま学校に行って練習のつもりだった周防が、ついヤケクソになってしまった理由もそこにある。お兄ちゃんは実はクズだったし、姉の想い人らしき人物は現れるし、テンションが上がってしまったのかもしれない。

「本当は日本に帰りたくなかったらしいんですが、父親から日本で少し修行しろと言われて渋々戻ってきたところ、私と結婚すれば早めに帰ってもいいと言われて、それでこんなことに。向こうに恋人がいるそうで、最初は断固拒否するつもりだったのに、私が逆らわないので建前の妻にしておけばいいと思ったそうです」

赤木は黙々とキャスターを拭いている。話が続かなくなってしまった美須々は、コーヒーを入れますねと言ってキッチンに立つ。が出したままにしておいたドリップパックをセットして、電気ケトルのスイッチを入れる。

「あ、そうだ、試合、どうだったんですか?」
「勝ったよ。今日は……なんだかいい試合だった」
「わ、おめでとうございます。あの、いつか見に行ってもいいですか」
「おう、いつでも見に来い。ひとりが辛かったらも連れてくればいい」
「それじゃ木暮くんが嫌がりませんか?」
「まあそうかもしれんが、もういいだろ、いい加減。よし、これでいい」

キャスターがすっかりきれいになると、赤木はスーツケースを起こして新聞紙の上に載せ、玄関近くに置いた。これならいつでも広げられるし、一応玄関は解放された。赤木が立ち上がったことで距離が一気に縮まってしまい、美須々は慌てて背を向け、シンクにへばりつく。の言葉が頭上をぐるぐる回っている。

こちらもスーツケースを見下ろして背を向けたままだった赤木が、ぼそぼそと話し出す。

「今更なんだが、その、よかったのか、これで。今まで積み上げてきたものが、台なしになるかもしれないだろ」

背中にその声を聞いた美須々は、キッチンのへりを掴んで大きく頷く。

「はい、後悔はありません。生まれて初めて、自分の意志で決めたことです。それに酔っている部分があるのは否定しませんし、大学をふいにしてしまうかもしれないのもわかっています。だけど、それはお兄ちゃんと結婚しても同じことです。どちらにせよ私はもう学生ではいられないのかもしれませんから」

身内に疎まれ、望まない結婚なんかに身を落とすなら、それで学業も将来も飛んでしまうのも同じなら、それなら、好きな人と一緒にいられる道を選ぶ。例え一緒にいられるのが短い時間であったのだとしても、幸せな記憶は残る。籠の鳥のような日々より、どれだけいいかわからない。

「ええと、皆さんにご迷惑をかけたことだけは申し訳ないと思うんですが」
「それは気にするな。周防含め、それこそみんなやりたくてやったことだからな」
………………あ、赤木くんもですか」
「そうだ」

電気ケトルのスイッチが戻り、湯が沸騰している。思い切って聞いてみたら即答されてしまった美須々の頭も沸騰しそうだった。顔が燃えるように熱い。は簡単に彼氏などと言うが、本当にそうなんだろうか。緊張も手伝って、美須々はまたわけがわからなくなってきた。

「だいたい、昨日の電話はなんだ。まるで死にに行くみたいなことを言いだすから」
「だって、本当に死にに行くようなものだったんです。二度と日本に戻れないと思って」

勢いで振り返った美須々は、昨夜のことを思い出して俯いた。

アパートから引き上げて一週間、を警戒していた耄碌ジジイこと宗像家当主の祖父は、美須々に切れ目なく監視をつけ、夜になると携帯も取り上げた。そのせいで昼間ならとも当り障りのない連絡を取ることができたが、赤木に連絡など取りようがなかった。

昨夜、赤木に電話するチャンスが巡ってきたのは偶然だった。祖父が仕事のトラブルだとかで1時間ほど家を空け、美須々の両親とお兄ちゃん父子は飲んでいた。引っ越しを翌日に控えた状態だったから、携帯を手に家を飛び出た姉に周防は何も言わなかった。

宗像家を出てすぐの場所に武蔵野の雑木林の残る場所がある。これも一応は宗像家の所有地だ。美須々はそこに入り込み、急いで赤木に電話をかけた。もしチャンスがあればと、言いたいことはずっと頭の中にあった。感謝しているということ、分けてもバレンタインの夜のこと、そして、自分が好きなのは赤木だけだということ――

これが平時であれば告白などとんでもないというところだっただろうが、何しろ死にに行くようなものだった。どれだけ恥ずかしいことを言ったとしても、電話だし、もう二度と会えないのだし、それならいっそ全部ブチ撒けてしまえと思った。もしそこで嫌がられたのだとしても、それはそれでかえって吹っ切れていいかもしれない、と。

初夏の風が吹き渡る真っ暗な雑木林の中で、美須々は直立不動で上を向いて喋った。青黒い夜空に小さな欠けた月が浮かんでいて、白い光が差し込んでいた。そのせいで現実感を失った美須々はすらすらと思っていることを言えたのだった。何度か声が詰まったけれど、通話中は泣き出さなかった。涙声にもならなかったはずだ。

それでも、だらだらと喋っていたら泣き出してしまう気がした。だから、一方的にさようならと言って通話を切った。折り返しかけて来られてもなんと言えばいいかわからないから、電源も落としてしまった。その瞬間、涙が溢れてきた。美須々は月明かりの下で声を上げて泣いた。

――という割とドラマチックなことをして死地に赴く気分でいたのに、あれよあれよという間に赤木とふたりきりになってしまった。は好きな気持ちがあれば何も問題ないだろうというようなことを言うが、美須々にとっては問題だらけだ。だいたい、赤木はどう思ってるんだ。

「だからもう、二度と――会えないと思ったんです。だからあんなことを」
「元気でいれば、いいと思ってた」
「え?」

スーツケースの方を向いたまま、赤木は手を腰にかけてため息混じりにこぼした。

「お兄ちゃんは人格者だって話だったしな。お前が納得してるなら、それで苦しむことがなければ、周防がに言ったように、たかが学校の友達のオレたちに出来ることはない。感情だけで突っ走ってお前を助け出したとしても、その後は無責任に放り出すしかないからな。それはかえって迷惑だ」

それでも何か方法があるかもしれないとあがいたのが、それが予め見つかっていないのに行動を起こすようなことをするなとストッパーになったのが公延、赤木はもちろん公延に賛成だった。

「自分でもどうして東京駅まで行ったのかわからないんだ。何で、名前を呼んだのかも……

美須々の頭の位置がどんどん下に下がっていく。

「だけど、二度と会えないと思ったら、つらかったんだ、オレも」
「は、え?」
「新幹線が出て、そうしたら、ホッとしたんだ。これでとりあえずはどこにも行かないだろうって――

淡々と自分の気持ちを思い出していた赤木だったが、背後から「うぐっ」という呻き声が聞こえてきたので、驚いて振り返った。キッチンの前で美須々は両手で口元を覆い、背中を丸めて肩を震わせていた。泣いている。

「お、おい、大丈夫か落ち着け、そ、そんなに泣くなよ」

慌てて背中を擦ってやった赤木だが、美須々は懸命に嗚咽を飲み込み、何とか呼吸をしようと必死だ。

「あのな、オレだってどうしたらいいかわからないんだよ、こんなこと」
「は、い」
「世間並みのことよくわからんてお前は言うけどな、オレだってバスケしか知らないんだ」
「はい」
「お、オレを好きだなんて言う女、今までひとりもいなかったんだし」

ようやくまともに呼吸が出来るようになった美須々はのろのろと顔を上げた。背中を擦ってくれていた手が止まり、見上げると赤木は困ったような顔をして美須々を見下ろしていた。美須々は丸めていた背を伸ばして少しだけ距離を縮め、赤木のジャージに手をかけた。

……私を、最初の女に、してもらえますか」

直後、美須々は引き寄せられ抱き締められた。少し爪先立つと美須々の体はきれいに赤木の腕の中に収まる。

「そんな物好き、お前以外にいないだろ。最初で最後だろうよ」
「じゃあ、それでいいですか」
「あ、当たり前だろうが」

赤木が急にもごもごと口ごもったので、美須々は小さく鼻で笑うと、頬をすり寄せてぎゅうっと抱きついた。不思議な感じだった。このところ、にはよく抱き締められていたけれど、こんな風に包み込まれたのは、いつ以来だろうか。子供の頃に親にしてもらった記憶すらなかった。

には色んなことを教えてもらった。美須々に新しい世界が開けたのは彼女のおかげだった。その一方で、時間をかけて美須々の心を育ててくれたのは赤木だった。少しずつ少しずつ、空のグラスのようだった美須々の心を幸せで満たしてくれたのは赤木だった。今その幸せが収まりきらずに溢れだしている。

「赤木くんは私でいいんですか。何も出来ない世間知らずなんですよ」
「いいも何も、お前しかいないんだよ。オレにもお前しか、み、美須々だけだ、から」

言ってから盛大に照れた。美須々の方も瞬間沸騰状態で、ふたりは真っ赤な顔をしている。ふたりとも、好きになったのも好きになってもらったのも、初めてだった。そして、こうして一番近くにいることの幸せを感じたのも初めてだった。色々いっぱいいっぱいだし、恥ずかしいけれど、離れたくない。

「これからどうするのかとか、決まるまで、ここにいてくれないか」
「はい、ここに、一緒にいさせてください――

日が傾いて西日の差し込むキッチンで、ふたりは音もなく唇を重ねた。

それからしばらくの間、美須々は赤木の部屋で過ごしていた。赤木は普段通り学校にも行くし部活にも出ているので、日中はひとりだったが、がしょっちゅう顔を出してくれたので、美須々は彼女と頭を突き合わせて今後のことを模索した。その間、やはり宗像家からは連絡ひとつなかった。

「父方の従姉妹にも話をしたんです。そしたら、祖父母が家に来いと言ってくれているらしくて」
「ええと確か――
「はい、埼玉の戸田です」

学校の方はまだ何も手を打っていないが、もし退学せずに済んでも戸田なら充分通学圏内だ。が入れ知恵をして、美須々はこのところ毎晩夕食を作って赤木を待っている。今日もまっすぐ帰ってきた赤木と小さな食卓を囲んでいたところだ。

としては新婚気分になれとでも考えていたのだろうが、生憎美須々の思考はそこまで気が利かない。居候なのだから炊事掃除くらい、と思いながらやっている。またこれがおかしなことに、赤木もそう考えている。そのくらいの仕事があった方が後ろめたくなくていいだろうと言うのだ。は甘い。その上、

ちゃんはここに住めって言うんですよ」
「ただでさえ狭いのに……人ごとだと思って」
「なんだか劇的な展開を期待していたみたいで」
「人を見て物を言えってんだよな」

美須々と赤木にとっての劇的な展開は、同世代の一般的なカップルにとって普通の展開である。は期待していたというより、いざふたりがくっついてみたら大丈夫なのかと不安になったというのが正しい。色々美須々に確認を取り、困ったことがあれば公延にも言ってもらうからと念を押していた。

「まあその、確かに私たちはませた子供より経験がないんでしょうけど」
「だからって焦って世間並みにならんでもいいじゃないか」
「はい、そう思います」

実は、には黙っているが、美須々は逃亡してきた日の夜から毎晩悪夢にうなされていて、少し不安定な状態にあり、が考えるような甘い展開どころの話ではなかった。疲れて眠る美須々の隣で横になっていた赤木はそれなりに緊張していたのだが、悪夢に飛び起きる彼女に何かしようという気は起こらなかった。

しかし、悪夢に飛び起きても、赤木に抱き締めてもらうとすぐに安定を取り戻すことができている。これでは赤木が寝不足になってしまうと美須々は落ち込んだが、本人は大丈夫だと言い張っている。彼もまたすぐ近くに美須々がいることが嬉しかったからだ。

そんな風にして過ごすこと数日、金曜の夜でと木暮がやって来ていて、アパートの部屋が人で埋まっているところに突然周防がやって来た。顔の傷の経過もいいようだった。は公延にぺたりとくっついて警戒態勢だが、さすがにこの状況でちょっかいを出す気はないようだった。

「予選はもちろん勝ったよ。スタメンも外されてない。親には合宿所にいるって言ってある。秋月にそんなもんないってのに、本当に興味ねえんだよなあいつら。まあその方が今は都合がいいんだけど」

顔やら腕やらに生々しい傷をつけたまま学校に戻った周防は、部員や監督の前で退学させられるかもと大嘘をついた。だが、一応彼も宗像家での立場はあまりいい状態ではなく、その可能性はゼロではない。焦ったのは学校側だ。実はこの年、秋月学園は周防と主将の3年生がふたりで支えている状態だった。

インターハイではそれほど高成績を残しているわけではないが、東京では古くからバスケットの強い高校として知られている。今ここで周防に抜けられてしまうと、まずまちがいなくインターハイ自体を逃す。それはマズい。

そんなわけで、周防は急遽監督の家に居候することになったという。私立高校なので本年度の学費は既に納入済みだし、基本的に毎日朝から晩まで学校にいるので、居候とは言っても寝場所の提供という程度だ。その上学食まで無料にしてもらったという大盤振る舞い。周防は、一応衣食住に困らない環境を手に入れた。

「それだってインターハイに行かれなきゃそこまでだし。てか美須々、家から連絡が来ない理由がわかったよ。お兄ちゃん、あの日のこと黙ってるんだよ。宗像の家は美須々がちゃんと向こうにいると思ってる。まあ、だからって連絡ひとつないんだから、異常だけどさ」

こういうことに関しては妙に勘の働くは、連絡はあるけどお兄ちゃんが適当にあしらってしまっているんじゃないかと疑った。だが、この件はそれならそれで美須々たちは成り行きを静かに見守っていた方がいい。

「オレもどうすっかなあ。大学の方はどうやら本気で特待で行かれそうなんだけど、その前に高校が――
「それだ!!!」
「な、なによちゃん」
「それだよ、ベルちゃんも特待受ければいいんだよ!」
「簡単に言うけど、特待なんてそんな簡単に受けられるもんか?」

そう返した公延はじめ、全員が疑わしい顔をしていたが、は確信に満ちた目をしていた。

「ベルちゃん、耄碌ジジイの後輩とか言う教授、よく知ってるんでしょ? そこよ!」
「あ」

ドヤ顔でふんぞり返るに、全員が同じリアクションで声を上げた。

それから1ヶ月後、夏休みに入る頃になって宗像美須々と周防姉弟の身辺は一気に片付いた。

まず美須々の大学だが、彼女が入学以来完璧な成績でトップをひた走っていたおかげで、残り3期の特待生が認められることになった。これはの思いつき通りに、宗像家の事情を知る知己の教授の情に訴えたのが功を奏した。おかげで美須々は秋から以前と同じように学校に通えることになった。

そして、孫ふたりが宿なし状態で友人や監督の世話になっているということに怒りの収まらない父方の祖父母、そして叔母一家は若干勢いも手伝って発奮、ふたりとも引き取ると言い出した。叔母一家は全員働いているし、祖父母も自営業なので、両方で面倒を見ると言っているらしい。

中でも美須々より4つ年上の従姉妹は、久々に見た周防が桁外れの美少年に育っていたせいで大興奮。周防の小遣いくらい私が稼いでやると鼻息荒くなっているらしい。

その周防はそんな話が進む中で、独断でお兄ちゃんに連絡を取り、宗像の家には黙っていてやるし、この件をどんな風に片付けても構わないから美須々の荷物を送れと言って脅した。今のところ上手い解決策は見つからないようだったが、美須々などどうでもいいから早く日本から出て行きたいお兄ちゃんはこの条件を飲んだ。

かくして宗像姉弟は、歩いて数分の距離にある父方の祖父母の家と叔母の家、ふたつの家庭に引き取られることになった。さらに、その話し合いの中で、美須々に請われてついて行ったの策により、週末に限り、美須々は赤木の、周防は監督の家に行くことになった。

ふたりを引き取ると息巻いているのはいいが、いずれ興奮が収まった時に邪険にされても困ると考えたは、急激な変化や経済的な負担の軽減、そんなことを建前にしてこのルールを取り付けてきた。ついでに美須々と赤木を一緒にできて、一石二鳥。周防にちゃん汚いと言われていた。

実を言えば美須々の精神は依然あまりいい状態になく、もう隠してもおけないと考えた赤木はに全てを打ち明け、いきなり離れるのは不安が残ると言った。そんな意味もあって、美須々は週末を赤木の部屋で過ごすことになった。金曜の夜から月曜の朝までは赤木の部屋である。

しかし、日中の美須々は元気そのもの、赤木やが近くにいてくれること、父方の家族が親身になってくれていることで気持ちだけは前向きになってきた。夜になるとそれを保つ精神力が尽きてしまうというだけのようだった。そんなわけで、美須々は生まれて初めてのアルバイトも始め、少しでもいいから父方の家族たちの負担を減らすよう務めた。

周防の方は無事にインターハイ出場が決まり、今年もベストファイブに入ったと言って喜んでいた。ついでに姉が赤木の部屋にいる間に彼はちょくちょく顔を出すようになり、話についていけない姉を残して赤木とバスケットの話で盛り上がるようになった。最終的には公延まで混じるようになり、そっちはに怒られていた。

そんな風に、不安定な部分を残しながらも、美須々の生活はこれまでの道筋を反れ、想定していた将来とはまったく違う方向へと向かい始めた。そしてそれは、弟の周防はもちろん、赤木にまで影響を与え、彼の道をも大きく変えることになった。