エンド・オブ・ザ・ワールド

End of the World. supplement

春美編3

「はるは……過去を変えたいと思う?」
「そうねえ……両親とはもう少し一緒にいたかったなとは思うけど、ふたりが生きてたら、たぶんあんたは生まれない。それはなんか少し嫌だわ、やっぱり」
「後悔はしてない?」
「今はね。あの家にいた頃はお姉ちゃんと良和さんの結婚を止められてたらって何度も思ったわよ。だけどあのふたりが結婚しようがしまいが私は病気になってただろうし、お姉ちゃんが変わるわけでもないから、どうせまた別の良和さんみたいな人と一緒になってただろうし」
「旦那さんはその、過去のこと、どんな風におっしゃってたんですか」
「まあ、元ヤクザだからね。そういう前科のある人は珍しくないし、目の前で人が死ぬのは何回か見たことあるし、私のことを特別には感じないって言ってた。それに、やっぱりそういう風に反社会的な組織に飛び込んでしまっただけあって、彼も父親で苦労した人らしいの。それが嫌で中学生くらいで故郷を飛び出して、だけどマトモに生きていけるはずもなくて、それでヤクザやってたような人だったから、彼も言ってくれたわ。正当防衛だって。ふたりしてあんまり自慢できた過去じゃないけど、その分世の中に返していかれるように一緒に生きていかないか、って」
「ヤクザって簡単にやめられるものなんですか」
「たまたまあの人がいたところはそれほど大きな組織じゃなかったし、重要なポストにいたわけでもなかったし。だから心臓患ってたのが幸いしたのよ。診断結果を報せに言って、マトモに動けません、莫大な費用の治療をしないと、って言ったら戻ってくるなって追い出されたそうよ。役立たずと思ったでしょうね。だから足を洗うのは手間じゃなかった。むしろその後の治療の方が大変だったわ。何しろお金がないからね。私も働いてたけど、もちろん足りない。結局借金して治療を終えて、療養して、働けるようになったのは2年後くらいだったかな」
「今は何してる人なんだ」
「インテリヤクザっていうと言いすぎかもしれないけど、バカじゃなかったから、事務所では本当に事務仕事してたの。喧嘩も強くなかったんですって。そういう経歴だったもんで、やっぱり方々に相談して職安でも相談に乗ってもらって、今は更生保護施設にいるわよ。て言ってもやっぱり一般職員の事務員だけどね。ただ経歴が経歴なもんで、『目』は役に立ってるそうよ」
「危なかったな、危うくオレはそれが縁ではるに再会するかも知れなかった」
「えっ?」
「オレもだいぶマトモじゃなかったんだよ」
「おイタしてたの?」
「まあな」
「グレてたってこと? まあそれっぽい風貌にはなってるけど、どうやって立ち直ったのよ」
「立ち直ったって言っても高校なんかろくに通わないまま中退してそのままだぞ」
「だけど今はちゃんと働いて結婚もしてるんでしょう」
「働いてるのはグレた頃からそのままだよ。社長がなんつーか、親代わりで」
「けどもうおイタはしてないんでしょ」
……それはこいつに出会ったからだよ」
「ふぇ、その、あの」
「うふふ、うちの人みたいね」
……ああ、一度話してみたい」
「今はびっくりするぐらい普通の人よ。あんたの方が怖いわ」
「それはしょうがないだろ……
「てかそうよ、ミライちゃん、こんな怖いのでよかったの?」
「うえっ!? いえその私が追いかけ回して結婚してもらったようなもので」
「そうなの!?」
「大袈裟だよ」
「私がヤンキーに捕まってたところを助けてくれたんです。共通の友人がいたからだったんですけど」
「なによそれやるわね鉄男……
「それで私が追いかけ回して、それで、てっちゃ……鉄男さんは根負けして」
「てっちゃんなの、あんた……
(ニヤニヤ顔の春美、焦るミライ)
「あわわ」
「その顔やめろ」
「それにしても結婚は思い切ったわね〜ミライちゃんのご両親は反対なさらなかったの?」
……はる、ミライも家族がいないんだ」
「えっ」
「それで、はるが生きてるって知らない頃だし、おふくろは疎遠だし、家族になろうか、って」
「そうだったの……ねえミライちゃん、私こんなんでも一応鉄男とは血が繋がってるし、その、よかったら家族と思ってくれたら」
「あっ……ありがとう、ございます……あの、嬉しいです……
「まだ少し早いと思うけど、いずれ時が来たら、子供、できるといいわね」
「はっ、はい、欲しいです」
「鉄男、あんたも欲しいの、子供」
「ああ、うん、子供は、欲しいと思ってる、けど」
「けど?」
「まあその、正直オレが親になっていいもんだろうかとは思う」
「私たちみたいに過去に色々あるとどうしても不安が残るわよね。マトモな親になれないんじゃないかって。ちゃんと出来ないんじゃないかって」
……そうだな」
「でも、私は親になる機会もないままここまで来ちゃったけど、それでも子育てって模索しながらするもんだと思うわよ。最初から全部完璧に出来る人なんているわけないじゃない。むしろダメ親の経験があるんだから、いい反面教師に出来るんじゃないかって思うわよ。ミライちゃんも不安よね、お母様がいない状態で出産なんて出来るだろうかって」
「は、はい……
「だけど欲しいわよね」
……はい」
「出来るわよ、大丈夫! 私も何でも力になるから。身内がいないことはどうにもならないもの、だったら他人の手でも何でも使ったらいいのよ。そういう時に、頼ってくれたら、嬉しい」
「あ、ありがとう、ございます」
「あなたたちはあなたたちのオリジナルの家族を作ればいいんだからね。私の家庭もこれはこれでけっこう楽しいのよ、うちの旦那、カクテルが趣味でね」
「へえ」
「元インテリヤクザでカクテルが趣味ってなんかかっこいいですね」
「あんまりスマートな人を想像してると後でがっかりするわよ」

(岩田家からの帰り、車内)
「これでやっと全部すっきりしたね! どう? まだ気になることある?」
「いや、もうない」
「しかし……こんな大変な話になるとは思ってなかったな。てっちゃんなんてどうしようもないゴロツキのバイカーなのかと思ってたけど、頭の中には色んなことが隠れてたんだねぇ」
「ゴロツキ……
(肩を震わせて笑いをこらえている鉄男)
「えっ、そこ笑うところ? てっちゃんのツボがよくわからん……
「これでいつでも結婚できるな」
「けっ……だ、だけど籍入れるとか入れないじゃないし、結婚式の予定があるわけでもないし、今でもふたりで暮らしてるわけだし……
「そりゃそうだ。そうじゃなくて、あの事務所の2階を出ないことには結婚したことにならん気がする」
「ああ、そっか、そうだよね。そうか、独立だね」
「金、貯めないとな」
「よし、私ももう少しシフト増やせないかどうか聞いてみよう。もしダメだったら仕事変えてもいいしね」
……そこは無理するなよ」
「無理はしないよ。だけど週5で9時5時くらいの時間働けるようにしたいなって」
「ミライ」
「でも、今のスーパー時給はいいんだよねえ。従業員割引もあるし、お惣菜もらえるし」
「ミライ」
「開店から6時……ああごめん、なに?」
……ありがとう」
「え、なに、どうしたの」
……確かにお前が現れるまでのオレなんて、どうしようもない、どうかしようとも思わないゴロツキでしかなかったはずなんだけど、お前が現れて以来ほんの数ヶ月の間に、オレのもとには叔母と、子供の頃の親友と、楽しかった故郷の記憶が戻ってきて、気付いたらお前がいて、それが家族になることになってて、自分でも実感がないくらいゴロツキはどこかに消えてて、だけどそれで良かったって、思えたから。全部、お前のおかげ」
「そ、そんなこと……私は……と寿を捨ててもてっちゃんと一緒にいたいって、そう覚悟したから、目の前にあることは全部、全力投球して生きていこうって、思ったから」
「だからミライ、今度はオレの番」
「えっ、どういうこと……
「お前はこの世に存在してるはずのねえ人間だけど、絶対、何があってもお前のことはオレが守っていくから」
「て、てっちゃん……
「ちょっと前までは薔薇の花びらがなくなるまでなら、何度でも未来に帰ったっていいんじゃないかって思ってたけど、訂正する。本当は秘密任務に出かけるっていうお前と一緒に行きたかった。離れたくなかった。だから石をプレゼントしたんだ。オレを忘れてほしくなくて、繋がりを残しておきたくて。そうやってあの時一度離れ離れになってる。だからもう二度と離さない。お互いジジイとババアになるまで、もう二度と離さないからな」
「うえ、うええ」
「また面白い顔で泣いてんのか。締まらねえ女だな」
「うえ、そういう、女が、いいんでしょお、うええ」
「おっしゃるとおりです」
「てっちゃん、わたしほんとはドレスきたいいい、およめさん、やりたいい」
「だろうと思ったよ。全部ひとつずつやっていこう」
「新婚旅行も、行きたいいいい」
「海外は無理だけど国内ならどこでもどうぞ」
「修学旅行、行かないままだったから、沖縄あああ」
「そういや学ラン見つかったのか」
「まだ探してないいいい」
「女子高生みたいな服も探しとけよ、なんでも付き合ってやるから」
「うええええええ」
「てもその面白い顔だけはやめろ。運転できねえ」

(1年後)

(岩田家訪問から1年後、越したばかりのアパートにて)
「てっちゃん、はるがいい加減都合つけなさいよ、もう1年経つわよって」
(春美の夫と会わないまま1年が経過)
「時間が合わねえんだよな……
「うーん、土日が空かないからなあ」
(稼ぐためにふたりとも土日を働いて平日に休んでいる)
「岩田さん、平日の夜ダメなのかなあ」
「それ聞いてみろよ」
「てっちゃんの叔母さんでしょー」
「最近はお前の方が仲いいだろよ」
「まあね! はる、さすがにナンバーワンだよ、はるといるとベラベラなんでも喋れちゃう」
……余計なことは言ってないだろうな」
……言ってません」
……言ったな」
……言いました」
「何を言ったんだよ」
「言えません」
「そんなこと言ったのか」
「何も言ってないじゃん」
「どうせどうやって付き合うことになったのかだの、初めての何はどこでどうしてとかそんなんだろうが」
「てっちゃんは超能力者ですか」
「超能力がなくてもわかるわ。お前、未来人だってことはバレないようにしろよ」
「でもさ、普通未来から来たってそんなにアッサリ信じないよね?」
……まーな」
「てっちゃんの場合は色々、寿と知り合いだったりとかで、確信を持てる要素があったわけだけど」
「けど、未来人だとは思わなくても、なんかこいつ変だ、って思われないようにしろよ」
「気をつけます」
「んじゃ、連絡よろしく」
「あっ、逃げんな!」
「オレははるたちと食事する店でも探しとくわ」
「そんなの社長に聞けば一発じゃないか〜」
「あー、疲れたー、風呂入って一杯引っ掛けて寝るか〜」
「ビール飲んだらチューしてやらないからな!」
「了解、じゃあ今日はチューなし、と」
「えっ、ちょっ、それは!」
「あー、嫁に愛されてつらいわー」
「ちくしょおおおおお」

(翌月、岩田夫妻と会食)
「これが私の甥っ子、鉄男。それからこちらが奥さんのミライちゃん」
「初めまして」
「ご挨拶が遅くなりまして、申し訳ありません」
「こちらこそ、岩田と申します。忙しいのに悪かったね」
「いえ、こちらこそ土日に都合がつかずに」
「今ふたりともお仕事に一生懸命なのよね」
「まだふたりとも二十歳そこそこだったよね? そりゃあ立派だけど、根詰めすぎないようにね」
「はい、ありがとうございます」
「というか、僕のことは春美から聞いていますか?」
「はい。ええと、僕たちのこともお聞きですか」
「もちろん聞いています。それじゃあ前置きはいいですね」
「はい」
「つらい過去を持つ者同士、今日は楽しくお食事しましょうね! ミライ、好きなもの頼みなさいよ」
「えっ!? きょ、今日は私たちが!」
「バカを言うんじゃないよ、僕たちが君らに奢ってもらってどうするんだ」
「で、ですが……
「鉄男くんもそれなりに社会人ならわかるだろ。こういう時は年上を立てておくもんだよ」
「す、すみません」
「鉄男、今日は車?」
「いや、バスで」
「よしよし、大人になったわね。じゃあシャンパン入れちゃおうかしら」
「いや、春美、さっきメニュー見たけどシャンパンはあんまりおすすめできない、だったら食事を頂いてからバーに行こう」
「あらいいわね!」
(はしゃぐ春美、顔が青いミライと鉄男)
「はる、私たちそんな……
「今日ぐらいいいじゃないの〜」
「今日ぐらいって、はるいつも私と出かける時」
「うふふ、娘ができたみたいで嬉しいんだもの〜」
……って言えばミライが黙るしな」
……そういうツッコミは可愛くないわよ鉄男」

(会食後、岩田夫婦)
「君に聞いてたとおりの子たちだったな」
「いい子たちでしょう?」
「ふたりとも苦労してきたのがわかる顔してるな」
……そうね」
「というか鉄男くんはあれ、だいぶおイタしてたんじゃないのか」
「本人はあんまり話したがらないけど、ミライの言うところによるとだいぶ荒れてたみたいね」
「でも大丈夫そうだな。鉄男くんが大黒柱のようで、ミライちゃんの方がしっかり手綱を握ってる感じだ」
「それがねえ、あの子、私でもちょっと驚くくらい鉄男のこと大好きなのよねえ」
「そりゃ鉄男くんの方も同じじゃないのか」
「そう見える?」
「見える」
「やだ〜」
……だけど、ミライちゃん、あの子はちょっと引っかかるな」
「えっ、どういう意味よ」
「年、鉄男くんと同い年って言ってたけど、もう少し若い。たぶん誤魔化してる」
「そ、そう、かしら……私にはよく……
……言葉は流暢だったし、外国育ちという感じもないけど」
「ちょっと、どういうこと」
……単に後ろ暗い過去を持つおっさんの勘だよ」
「ミライがなんだっていうのよ。ことと次第によっちゃ……
「落ち着けよ。あの子を悪く言いたいとかそういうことじゃない。あの子はいい子だよ。しっかりしてるし、きちんと受け答えも出来るし、君の言うように鉄男くんを心から愛してるんだろうから、あのふたりは何の問題もない」
「じゃあ何なの」
……上手く言えないけど、オレたちの中でも一番とんでもないことを腹に隠してる、そういう感じがする」
……それでもいいわよ。私、あの子たちの親になってあげたいのよ」
「オレだってそれは賛成だよ」
「どっちなのよ」
「だから勘違いするなよ、今のところただの勘だし、それを糾弾したいわけじゃない。もし何か重大な秘密を抱えているのなら、それが取り返しの付かないことになる前に助けてやれるのはオレたちしかいないじゃないか、っていう話」
「そ、そう……ごめんなさい、ありがとう」
「君には甥っ子だろうけど、オレにしてみれば突然息子と娘が湧いて出てきたようなものだからね」
「あの子たちに子供が出来たら赤ちゃんを抱っこさせてもらえるかもしれないわよ」
「不思議なものだな。自分たちでは子供を持てなかったのに、気付いたら子供と孫か」
「いいじゃない、そのくらい。きっともっと長く生きててもいいって、天からお許しをもらったんだわ」
「気分がいいな、春美、もう一杯やっていかないか。気が早いけど、祝杯」
「いいわね! 行きましょ!」

(会食後、ミライと鉄男。バス停まで歩いている)
「はるに聞いてたけど、ほんとに元ヤクザって言われてもわかんないくらいだったね」
「それだってもう10年以上前の話だろうしな」
「あ、そっかあ。私たちは新潟の話が近く感じるから最近の話みたいに思えるけど……
「でもオレたちを見る目はただの人ではなかったな」
「えっ、そう?」
「ま、過去に色々あった人独特の目をしてたな。よく言うだろ、顔は笑ってても目は笑ってないって。それの極端なやつだ。顔も目も笑ってるんだけど、眼球だけ笑ってない」
「ワルの世界も色々ありますねえ……
「そんなもの知らん方がいい」
「残念ながらあのハデスとセイトの記憶はなくなってくれなくてですね」
「そういやあいつらどうしたんだっけ」
「そういえば……全然調べてなかったな。何か誰かに聞いたりしないの?」
「まあその、あの当時の仲間とかそういうの、ほとんど切れてるからな」
「まあそうね。寿ともほとんど連絡取ってないんでしょ」
「向こうが学生だしな。だけどそこが完全に切れても困るから、徳男にはたまに連絡取るようにしてる」
「私もまだが専門に通ってるから、はると外出してる時は警戒してるよ」
……仕事が何とかなるなら遠くに越してもいいんだけど」
「あ、ええと、まだ未来のこと話してなかったよね」
「え?」
「もう既に充分過去をいじってるけど、てっちゃんが同じ運命をたどるなら、この街にいないと」
……まだ聞かなくていいのか、その、未来の話」
「私は聞いた方がいいんじゃないかって思うんだけど、てっちゃんはどう?」
「お前の判断でいいよ」
「じゃあ、帰ったら、話そっか」

(自宅にて)
「私の記憶がイマイチ正確ではないんだけど、てっちゃん、30くらいで病気するの」
…………そうか」
「はるじゃないけど、入院もするし、しばらくは生きてるのがやっと、っていうくらいに体を壊すんだけど、でもちゃんと助かるの。その後は全然健康だったし、私が知る40代のてっちゃんもほんとに元気だった。だけどその病後、てっちゃんマジで生きてるのがやっとって感じで、しょっちゅう三井家に来てたの」
「だからお前あの時体に気をつけろって、何かあったら三井を頼れって」
「そう。それがおそらく私が3歳とか4歳とかそのくらいで、私はその時てっちゃんに運命の恋を」
「お、おう……
「どんな病気だったかとかまで覚えてないのはほんとごめん。てっちゃんもあんまりお喋りな方じゃないし、ましてや自分のことなんか進んで話さないし、まあぶっちゃけ今のてっちゃんとはまるで別人といいますか」
「そりゃお前のせいだ。でもまあ、治るんだろ?」
「そう。それだけは確実。病気がどうとか言うよりも、疲れた体に病気が重なって、退院しても体力が戻らなかった感じだと思う」
「そしたら……支払いキツいけど、医療保険か」
「うん。支払いはキツいけど病気の時はかなり助かるはず」
「実はクミさんに突っつかれてたんだよな。ミライのことを思うなら健康なだけじゃダメだって」
「私も入れればいいんだけど……たぶん無理だよね」
「でも、それって突き詰めればやっぱり金さえあれば何とかなることだろ」
「まあ、うん、そうね」
「だからって働きすぎて体壊してもしょうがねえけど、ミライ、オレも頑張るから」
「ううん、そんなのわかってたことだし、てっちゃんがそういう風にポジティブに考えてくれるの、ほんとに感謝してる。ふたりで、頑張ろ」
……ごめんな、こんな切り詰めた生活で」
「何を謝ることがあるの。私てっちゃんのお嫁さんでいられて幸せだよ。はるもいて、クミさんもいて、友達も少しずつ出来てきたし」
「お前もポジティブだよな、ほんとに」
「やりたくてやってることだしね。こんな生活嫌ー!ってなるくらいだったら、未来に帰ってます」
「ま、そうか」
「そういうわけで、また明日からよろしくお願いしまーっす!」
(両手を上げてからべたーっと土下座)
「ゴフッ」
「ごめん……一緒に暮らしはじめて1年半経つけど……ほんとにてっちゃんのツボがわからない……