エンド・オブ・ザ・ワールド

End of the World. supplement

春美編1

(翌日、上越新幹線を下車したふたり、東京駅)
「てっちゃん大丈夫……私も手伝うってば〜」
「大丈夫だっつってんだろ」
「いいよもうそれ送ろうよ」
「重量あるから高いぞ。いいってこれくらい」
「はあ……まさかお土産こんなにもらうとはね……こっちも重いけど」
「田舎ってそうなんだよ」
「だからって米10キロはないでしょ、担いで神奈川まで帰るってわかるじゃん」
「まあ不定期で米送ってくれるってんだから大目に見てやれ」
「えっそうなの!?」
「聞いてなかったか。サトルの友達に米農家がいるらしくて、古米をかなり割安に譲ってもらえるんだとよ」
「そっ、それは助かるけど……てっちゃんキツくなったらすぐ言ってよ、代わるから」
「言うほど重くない。腕より腰が痛え」
……それは昨日私よりてっちゃんが駆け落ち設定で盛り上がったからです」
「たまにはアリだな、気分が変わって」
「てっちゃんがそういうの平気てのは意外だった」
「どうせやるこた変わんねえんだしな」
「あのー、ちょっとお願いが」
……嫌な予感するけど一応聞いておこう」
「てっちゃん一応高校入ったんだよね?」
「まーな」
「制服、残ってますか」
「そう来たか」
「まあ私も制服はこじれた未来に置いてきちゃったんだけど。ブレザー? 学ラン?」
「学ラン」
「残ってますかハァハァ」
「どうだったかな……捨てた記憶もねえけどどこにあるのかも」
「帰ったら探すわ」
「お前は制服でなくていいのか」
「なんとかそれっぽいの調達する」
「お前のその熱意は一体どこから来るんだ」
「タメより先輩後輩とかの方がいいかな〜」
「なんでもどうぞ」
「ううう私の旦那様心広い優しい」
「制服探すついでに春美探す方法も探してくれ」
「それだよな〜。でも神奈川にいる可能性は高いわけだし、社長たちにも聞いてみようか」

(社長宅にて、ミライが来たので喜んだ社長嫁が焼肉をふるまう)
「そりゃ興信所が早いだろ。わり、ビール取ってくれ」
(キッチンにいる嫁に声をかける社長)
「高く付きませんか」
「そりゃまあ5000円で、とはいかねえけど。見積もりだけでも取ってみたらどうだ」
「なんの話? 興信所!? すっげえ高いわよ〜」
(戻ってきた嫁、ビールをドスドスとテーブルに置く)
「え、そうなのか。ビールすまん」
「最低最短でも10万くらいかかる。鉄男、これそっち置いておいて」
(自分用の缶チューハイと鉄男用のウーロン茶をドスドス置く)
「さすがにそれは……
「うえええええ高い……
「人探しねえ。消息を絶ったのはどこなのよ。ほらミライお肉食べな」
「いえ、そもそもオレは叔母の記憶がないんです。地元の人の話だと、逮捕された時はもう自力で起き上がれなかったらしくて、病院直行だったと」
「じゃあまあ、入院してる間に正当防衛が認められて無罪放免扱いになった、て感じ?」
「事件性が薄くて正当防衛、不起訴処分、てとこか。事件のあらましだけなら裁判所にちゃんと記録が残ってるだろうけど、さてその後となるとな」
「搬送された病院くらいならいいんじゃないの、って気がしちゃうけど。調べればわかる甥っ子なんだし」
「でも病院は守秘義務があるから、って」
「そりゃ患者の情報はペラペラと喋れないだろうけど、こっちが探してるんだってことを伝えることは出来るんじゃない?」
「伝えてくれますかね」
「ま、望み薄だよなあ」
「それよりはさっきミライが言ってたあんたが転校してきた時の白衣!」
「はあ」
「今はどうか知らないけど、男性の養護教諭って中々珍しいと思うのよ。だからもしかしたらそれって学校の記憶じゃなくて、病院の記憶だったりしない?」
「そりゃそうだよなあ。子供がポーンと記憶飛んじまって母親も覚えてないっていうのに病院にもかからないってのは不自然だわな」
「学校と病院だと、長い廊下とか並んだドアとか、記憶が混ざりやすい景色なんじゃない?」
「ありそうですね、それ。クミさんこれ食べていい?」
「んなこといちいち聞かないで好きなもの食べなさいよ! ほらほら、肉取んな! だから、あんたがかかってた病院探す方が早かったりしない?」
「そうか。子供の記憶喪失だし、医者の方もある程度事情は把握してるし、本人が聞きに行くわけだから」
「クミさんすごーい」
(クミさん=社長嫁)
「かかってた病院……
「何か覚えてることあるか」
「そういえば、病院の売店でいつも同じお菓子を買って食べてた記憶があるけど……それはてっきり新潟にいる頃かと」
「でもてっちゃん風邪ひとつ引いたことなかったって言ってたよね」
「たぶん。てかあっちにいる頃は風邪なんか引いても医者にかかったりしなかったと……金がないから」
「まあ風邪くらいなら寝て治すって人も多かったからねえ」
「それじゃまず自分の通ってた病院を思い出すのが先だな」
「あー何だっけ……
「てっちゃんて当時から付き合いのある人っていないの。友達とか。公立なんだし中学でもみんな一緒でしょ」
「今でも連絡取ってるようなのは……
「んーんー!」
(咀嚼しながらモゴモゴ言ってるクミさん)
「飲み込んでから話せよ」
「んー! 病院のことなら当時の担任とか記憶ないかしら」
「どーいう意味ですか?」
「鉄男の場合事情がかなり特殊でしょ。親が目の前で刺されて記憶喪失なんて、事前にしっかり説明が行ってるだろうし、そういう意味で気を配らなきゃいけない生徒だったはずじゃん。それに、叔母さんの件も含めてそんなに遠い病院にかかってたわけじゃなかっただろうし、もし学校にいる時に異変が起こったらかかりつけの医者に連絡入れる必要があったと思うし、だから医者の名前はわからなくても病院の名前くらいなら覚えてるんじゃないかな」
「クミさん頭いい〜!」
「だーろー!?」
「お前、小学校って」
「五小す」
「んじゃオレ明日電話してやるわ」
「え、いやそんな」
「オレの方が話が早い。世の中のバカってのは立場や外見で先入観を持つから、お前だと話が面倒になるぞ。こんなペラペラ喋るのも苦手だろうが」
「すいません」
「オレはまだるっこしいのは嫌いなんだよ」
「まーねえ、これでミライが電話して妻でしゅって言ったところで、若けりゃやっぱり怪しまれるからねえ」
「私そんな喋り方しない〜」
「てかあんたジュースでいいのほんとに」
「うん。なんかこの間お酒美味しかったから、飲む習慣つけたくないなーと思って」
「何それアタシに喧嘩売ってんの」
「クミさんはいーじゃんもう子供もいるんだし。あーでも体壊してほしくないなあ……クミさんお酒抜く日作ろ?」
「可愛いこと言いやがる……あたしやっぱり女の子欲しかったあ〜うちのクソガキどもほんっと可愛くなくなっちゃっても〜ミライに女の子生まれないかな〜そしたら女だけで遊びに行こ〜」
「女の子生まれたらね〜!」
…………その前にお前が父親てのがまずよくわからんわ」
…………オレもっす」
「てかお前子供欲しいの?」
「はい」
「まじかよ……ビール止まんねえわ」

(翌日、事務所)
「おう、お疲れ、電話してみたぞ」
「え、早かったすね、すいません。話聞いてくれたんすか」
「そりゃ一応会社社長名乗って従業員のことで、って切り出したからな。で、結論から言うと、お前が転校してきた当時の担任は今五小にはいなくて、二小にいるらしいんだ。で、そっちに連絡入れてみたら、ちゃんと覚えてたよ」
「まじすか……
「けどそこから先はオレの領分じゃないからな。本人からアポ取りに連絡入れてもいいかって聞いたら、平日の授業が終わった15時から18時位の間ならOKだそうだ。それくらいは出来るな?」
「はい。連絡してみます」
「行くのはミライと一緒で構わんけど、お前ももう少し喋れるようになるといいな。こういう時楽だぞ」
「はい」

(鉄男の出身校にて)
「私やっぱり外で待ってた方がよくない?」
「嫁なんだからいいんじゃねえの」
……まあそうか〜彼女だと浮ついてるって感じするけど嫁だといた方が自然か」
「どっちでも同じなのにな」
「まったくですよ」
(来客対応用の部屋に通されるふたり、当時の担任の先生がやって来る)
「ご無沙汰しています」
「やだ伊佐木くん大きくなっちゃって……いやあの頃も大きな子だったけどずいぶん伸びちゃって……。というか記憶戻ったんですって?」
「はい、ついこの間なんですが」
「よかったわねえ、ほんとに。えーとこちらは」
「あ、家内です」
「えっ、結婚してんの!? 早かったわね〜」
「お忙しいところありがとうございます」
「いいのいいの、私1年しか担任してなかったけど記憶喪失の子なんて初めてだったからすごく印象に残ってるのよ」
「すみません、先生の記憶もなくて」
「それはしょうがないわよ、当時もしばらく記憶が混濁してて、色々混ざってたから」
「そうなんですか……
「そうよ。覚えてないでしょう」
「はい」
「事件に繋がる記憶を部分的に隠しちゃったような感じだったし、覚えてることと思い出せないことが虫食い状態だったのよね。それに巻き込まれるようにして自分の今の状況に関しても出たり入ったりしてたの。だから日常的な記憶が欠落することもあったし、勘違いみたいな間違いが多くてね。体が大きかったからいじめとかはそんなに心配してなかったけど、馴染めないかな〜と思ってたのよね」
「馴染めたんですか?」
「それがほら、山で駆け歩ってたせいか健脚だったでしょう。転校してくるなり体育で1番になっちゃったのよ。それにおしゃべりな方じゃなかったから、自分からおかしなこと口走ってこいつ変なこと言ってる、っていうボロが出なかったのよね。寡黙で身体能力高かったから男子には好かれてたし、女子はまあそうね、ちょっと怖がられてたけど、でも嫌悪されたりはしてなかったわよ。記憶は戻らないままだったけど、日常記憶が安定してきたのはもう学年が終わる頃だったかしら……私が続けて見たかったんだけど、ベテランの先生のクラスに入ることになったから、おまかせしちゃったのよね」
「その当時って、オレ病院通ってたんでしょうか」
「その話だったわね、もちろん通院はしてたわよ。だけど治療ってわけじゃなくて、経過観察とご家族への状況説明が主だったし」
「状況説明……ですか」
「そう。何しろお母さんのこと忘れてたんだもの。それでお母さんがだいぶショックを受けてらして、親子関係に響くといけないからって当時の伊佐木くんの頭の中で一体何が起こっているのか、どうして思い出せないのかということをきちんと医学的に説明し続けてたのよ。だけどたぶん、伊佐木くん、結局お母さんのこと思い出さないままだったわよね?」
…………はい、最近記憶が戻ってそうだったんだと気付きました」
「えっ?」
(頷く鉄男、素で驚くミライ)
「一応学校にも病院の方から詳細な説明があって、その中でお母さんを認識できてないということがかなり問題じゃないかってことになってて、だけど記憶喪失はクスリ飲んではい治りましたってわけにいかないでしょう」
「そ、そうですね」
「だからね、『今一緒に暮らしてるのが君のお母さんなんですよ』って病院でも学校でも伊佐木くんに教え込んだの」
「えっ、それじゃあ……
「あれが母親という存在なんだと思い込んでた、っていう状態」
「子供だったから1年も経たずにすんなり浸透したけど、あの頃あなたが覚えてたのは叔母さんに当たる方と、生まれた町でよく遊んでもらったっていうお姉さんのことだけ」
「そ、そうだったんですか……
「それでも私が担任してた3年生の終わり頃には、前の家では山が近かったこととか、おばあちゃんと一緒に住んでたとか、どんな家に住んでたとか、そのくらいは戻ってきてたのよ。だけど事件に繋がる記憶は隠されたままになってるな、もしかしたら自分で隠してしまって、表に出したくないのかな、っていう感じがしたのよね」
「それが、覚えてたはずの叔母がどうも疎遠になったらしくて、一緒に神奈川へ越してきてたことも覚えてなかった……というか忘れてしまったらしくて」
「あら、そうだったの」
「それで、実はその、結局母とも疎遠になりまして……
「そう……お母さん、だいぶイライラされてたからね……。私たちも伊佐木くんが忘れたくて忘れてるわけじゃないんですよって何度も申し上げたんだけど」
「イライラしたまま、帰ってこなくなりました」
「私たちが心配してたことが現実になっちゃったのね……。でも、もう所帯持ってるんだし、大人だものね。そういうこともあるわ。それでええと、病院よね」
「その、自分の記憶喪失のこともそうなんですが、叔母が神奈川にいて生きてることも知らなかったので、何か情報があればと……
「あらそっちだったの? 叔母さんが入院してた病院と同じよ?」
「え!?」
「だって病院の近くに住んでた方が通院が楽じゃない。だから五小に通ってたんだもん。五小の近くにある県立総合医療センター。ああだけど、叔母さんの情報に行き着くかしら……伊佐木くんの担当医だった先生のお名前ならわかるんだけど」
「それだけでも充分です。なんとか当たってみます」
「これこれ、医療センターの神経内科の、松原先生ね」
「ありがとうございます」
「今でもいるといいんだけど……
「そうなんですよね……
「お母さんがそんな状態なら、叔母さん、見つかるといいわね」
「はい、ありがとうございます」
「それにしても……あの無口で淡々と走ってた伊佐木くんがもう所帯持ってるのねえ」
「先生、どうもオレ、記憶を失くす前は無口じゃなかったみたいです」
「あらそうなの!?」
「先日新潟に行ってみたんですが、当時同じクラスだった友人にバッタリ会いまして」
「しっかりもので溌剌とした少年だったそうです」
「まあ〜そう! でもそっちの伊佐木くんもこっちに来てからの伊佐木くんもどっちも同じ伊佐木くんだからね。戸惑うこともあるだけろうけど、見失わないようにね」
「はい、お忙しいところありがとうございました」
「お世話になりました」
……伊佐木くん」
「えっ、はい」
「結婚されてるならいずれお子さんが出来るかもしれないけど、あなたとお父さんは全く異なる人間なのよ。それだけは忘れないでね」
……はい。本当にありがとうございました」
「ありがとうございました。失礼します」
(五小を出て、手を繋いで歩くふたり)
……悪いな、あちこち付き合わせて」
「えっ、何言ってんの、悪くないよ、奥さんなんだから」
「見事なニヤニヤ顔だな」
「なんかさー、だってさー、どこ行ってもみんなちゃんと私のことちゃんと奥さんだって思ってくれててさ〜」
「な。籍を入れる入れないじゃねえだろ」
「ほんとだね〜」

(県立総合医療センターに当時の担当医がまだ在籍していて、診療時間外に面会を快諾してもらえた)
「おおお、あの鉄男くんか!? なんだいこんなでっかくなっちゃって……記憶戻ったって本当か!?」
「はい。あの、すみません先生のことは忘れてしまっていたらしくて……
「まあそりゃ10歳かそこらの頃のことだしな。いつ記憶戻ったんだい」
「ついこの間のことなんです」
「急に戻った?」
「それがですね、ええと、彼女と話している間にいくつかの単語に引っかかって、新潟出身だということは覚えているのに、不自然に記憶が少ないことに気付いたんです。それで少しずつ記憶探しをしている時に、蓋が開いたみたいに」
「なるほどな。全部思い出せた感じ、するかい?」
「いえ、それで今日お伺いたしたんですが、記憶は戻ったのに、こっちへ来てからのことが思い出せないというか、ほとんど忘れてしまっていて」
「そりゃあ子供の頃の記憶が薄いっていうだけのことじゃないのかい」
「そうだと思うんですが、実は叔母が生きているということも忘れていて」
……当時はお母さんを思い出せなくて叔母さんの名前しか言えなかったものだったけど」
「そうなんです。それで方々を当たってみたら、最初はこの病院に入院したはずだと教えられまして」
「そう。当時ここにいた心臓外科の先生の手術を受けるために入院してたし、手術は成功したし、退院もしたよ」
「そうですか……今も通院してるなんてことは」
「科が違うからなあ。君も投薬があったわけじゃないし、徐々に来なくなってしまってね」
「そうなんですよね……ここに通っていた記憶もほとんどないんです」
「まあそれは仕方ない。当時も日常の記憶はあやふやだったから」
「叔母の消息を探しているのですが、何か手段はないでしょうか」
「医者には守秘義務というものがあるから、私の一存で叔母さんの情報を教えてやることは出来ないんだけど、一応彼女については心臓外科に聞いてみてあげるよ」
「ほんとですか、ありがとうございます」
「まあ君が身内だってことはわかってるし、もし今でも通院してたら君が探してるって伝えることくらいは出来るから」
「すみません、よろしくおねがいします」

(自宅にて)
「てっちゃん、はる、みつかるといいね……
「ああ……
「もし見つかって会えたら、何話す?」
「なんだろうな……想像つかないけど、でも子供の頃の目線ではわからなかった当時の家の中のことを聞きたい気はする」
「はる、会ってくれるかな」
「どうだろうな、今もし結婚してて旦那子供がいたら会ってくれないかもしれない」
「えっ、それで?」
……自分が人を殺した過去の話だぞ」
……そっか」
「でもあの頃のオレははるがトドメ刺したところは見てねえんだよな」
「そう思って会ってくれるといいね」
「すまん、もう少し付き合ってくれ。もし会うことを歓迎してくれればだけど、はるに、お前のこと紹介したいから」
「嫁です、って?」
「そう」
……私さ、ここんところ色んな人色んな家族を見てきて、ああと寿に悪いことしたなって思うこともあるんだけど、でもやっぱりてっちゃんとここにいたいって思うんだよね」
……あのタイムマシンが使える間なら、帰ってもいいんだぞ」
「それはだめ。ここに残るって決めた時もそうだけど、自分がふたつに裂けるような感じがするの。あの時は、自分の本当の世界はあっちなんだって、親のいる所が自分の居場所なんだって、あの時代へ帰りたい気持ちがすごくあって、だけど同時にてっちゃんと離れたくないっていう強い気持ちがあって、体が半分に千切れるような感じがずっとしてたの。だけど、私はここに残るんだって覚悟をした時から、そういうのはなくなっていって、今はないの。でも不用意に未来に帰ったら、またそんな風になっちゃう気がするから、だめ」
「それで後悔がないならいいけど……
「どこがスタートだったんだろうね。私が4歳の時にてっちゃんを好きになって、高校生になって過去の世界にタイムスリップすることになって、だけどそこには未来からやって来た私と既に出会ってたてっちゃんがいて、結局4歳の私は私と結婚してるてっちゃんと出会う。そうじゃないてっちゃんも知ってるけど、今はそういうループの中にスポッと落ちちゃったみたい」
「まだそのループを外れることも出来るけどな」
「てっちゃんしつこい! 私は自分の一生をかけた覚悟をしたの。旦那様ならそれごと受け止めてください」
……オレでいいんなら」
「そーいう自虐みたいなの、てっちゃんらしくない。他のことではそんな風にならないのに、こういう話になるとすぐ自虐が出てくるんだから。私はてっちゃんがいいから覚悟したんだよ」
……オレもそうだよ」
「だったらつべこべ言わずにぎゅーってしてればいいの! ほらほら、善は急げ!」
……はいはい、嫁さんの仰せのままに」