バスに乗れてホッとしたせいもあり、ふたりがけの席に座っちゃって変に密着したせいもあり、ほとんど話題も尽きてたもんだから、バスでの中ではずっと手作りアクセサリーの話をしてた。いくらぐらいかかるのかとか、石の効能とか、どこで材料買うのかとか、そんなことを話してた。
ハンドメイドの経験は殆どないし、やったとしても上手ではないと思うけど、私も女子というか、可愛いものは好きだし、それを自分で作れるということには大いに興味を惹かれるし――てなわけで、オレの工房見てみるか? なんて話になっちゃった。
そんなわけでのこのこと清田ん家までやってきた私は、誰もいない家の清田の部屋に入り、想像以上にビッシリ揃えられてた手作りアクセグッズにびっくりして、そこで改めて何やってんだろうって感じになってる……
「これって一粒いくらくらいするの」
「それは色々。高めのから安めのまで」
「あ、これ知ってる、ローズクォーツだ」
「女の子が一度は付ける石だよな」
「えっ、そうなん……私持ってないけど……」
「え。いやほらその女子に人気だっていうだけで、ははは」
工具箱みたいなのに何種類もの天然石が入ってて、しかもちゃんと色ごとにグラデーションになるようにまとめられてて、もうずっと清田の雑なアホキャラっていうイメージが崩れっぱなし。私が来る予定なんてなかったのに部屋もきれいだったし、今朝パジャマをベッドに脱ぎ捨てたまま出てきた私はちょっと恥ずかしい。
「じゃあいつも付けてたブレスって全部自分で作ったものだったの」
「……まあな。せっかく作ったんだから使わないともったいないだろ」
「部員全員分とか作ってみんなで付ければいいじゃん。紫のレザーとかで」
「あー、いやいや、部活中は外してる。危ないから」
「あ、そか、ごめん……」
「別に謝ることじゃないだろ」
それにしても変な感じ。お茶とかもらいながら石を教えてもらったり、簡単なワイヤーのビーズリングの作り方教えてもらったり、相手は確かにあの清田なんだけど、違う人と遊んでるような気になってきた。
さっき言ってたローズクォーツは恋愛に、清田が今日付けてたタイガーアイは成功を、清田は勝負運や才能を伸ばすという意味合いのあるものをついつい買ってしまうなんて言っては笑ってる。
「わ、何これ超キレイ! 色んな色入ってて……すごい、宇宙みたい」
「セイクリッドセブンって言うんだ。7つの石が混ざってる」
他の石はザラザラといくつか入ってるのに、これだけは一粒ポツンと置かれてた。少し大きいし、もしかしたら高いのかもしれない。だけどそのセイクリッドセブンはあんまりキレイで、私は見惚れてた。紫と青とピンクが混ざったような色をしてて、だけど中心は透明で、教科書で見た銀河みたいだった。
そんな風にウットリしてたら、頬に視線を感じて、ちらと顔を向けてみたら、清田がこっちを見てた。もしかしてすごいアホ面してたかな……。てかすごい真顔なんだけど。何か言ってよ……
「……けっこう面白いだろ。こういうの」
「うん、作ってみたくなるね」
「やってみればいいじゃん。教えてやるよ」
「え、ほんとに?」
清田はうんうんと頷いて、それからサッと立ち上がると私の方を見ないで言う。
「今日はもう暗くなってきたからまた今度な。営業所まで送ってくよ」
言われて初めて外が暗いことに気付いた。ていうか、何となく清田が変。バスの営業所まで自転車の後ろに乗せてもらって送ってもらったけど、嬉しいの半分、ちょっと気まずいの半分で、たくさん歩いたことと一緒になって、ものすごく疲れた。食欲もなくて、倒れるようにして寝ちゃった。
だけどぐっすり寝たせいで長距離を歩いた疲れはほとんどなくなってた。それよりも清田がちょっと変だったことの方が気になって、私は土日をずっと天然石を調べたりして過ごしてた。
歩いてる時はもちろん、バスの中でも清田の部屋に着いてもずっとワイワイ楽しくやってたのに、セイクリッドセブンの話をした辺りから急に清田は静かになっちゃって、それまでは「いい感じ」だったのに、何がだめだったんだろう。高い石ベタベタ触っちゃったからかな……
だから月曜日、正直清田と顔合わせるのがちょっと怖かった。朝練から帰ってきたところに行き会って挨拶しただけで、私はそそくさと逃げちゃった。だってまだ何か変だったから――
その日は1日中どうしようかなって考えてたんだけど、何も思い浮かばないまま授業終わっちゃって、私はちょっと不貞腐れて教室を出た。そしたら廊下の対岸に部活行ったはずの清田が待ってて、ちょいちょいと手招きしてる。また顔は真顔。何なの一体……
「どしたん、この間はありがとね。おかげで足痛くならなかったよ」
「……これ」
「え? ああ、また新しいの作ったの?」
無難なことを言って近付いていった私に、清田はスッと手を差し出した。白のレザーに石が付いてる、この間の37号によく似たデザインのブレスレットだった。新作を見せてくれるってこと?
「……あげる」
「へ?」
「気に入ったみたいだったから、好みとか聞かなくて悪いけど」
清田はポカンとしてる私の手を取り上げて、白のレザーブレスをキュッと嵌める。
「……ってちょっと待ってこれセイクリッドセブンじゃん!」
「そう。気に入ってたろ」
「何言ってんの、これ高いでしょ!?」
「いいよ別に。試しに買ったはいいけど、使う予定もなかったし」
ブレスの先端には一昨日清田の部屋で見た七色の銀河がぶら下がってる。そりゃきれいだけど、私が週末調べた時は1粒1000円するところだってあったのに! ていうかそれだけじゃない、優しい色合いの石が全部で6個も付いてる。えーと、えーと、この石は何だっけ。
「悪いよこんな、タダじゃないのに」
「いいって。――転ばないように、お守り」
「そ、それは」
申し訳ない気持ちと、今ここで「払うよ!」なんて言って財布引っ張り出したら清田に恥かかすんじゃないかと思うのとで、私は頭がグルグルしてきた。ブレスを付けた私の手に清田の手が触れる。清田の人差し指がするっと私の小指を撫でて、先端で引っかかってる。
「作り方とか教えるから、その、今度、オレに作ってよ」
「私でいいの……」
「だから頼んでるんだけど」
指先と手首と顔が熱い。どうしよう、嬉しい。
「じゃあ、また、一緒に帰ろ」
「部活ないときだけど、いい?」
「うん、待ってる」
ていうかそれこそもう清田は部活に行かなきゃいけない時間だ。指が離れる。
「石の意味は、自分で調べて」
そう言うなり清田はダッシュで行ってしまった。……調べてっていうか、昨日散々調べたからだいたい覚えてるよ。白のレザーに柔らかいピンクの石たちが本当に可愛い。ローズクォーツ、インカローズ、モルガナイト、ピンクカルセドニー、ピンクオパール、そしてセイクリッドセブン。
セイクリッドセブン以外、オール恋愛系じゃん、バカ!
END