BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 040 / セントラクライシス25:00
SQUALL SIDE.
見つかってくれるなよ……
東セレンゲッティ平原の西端、トラビアクレーターとの境あたりに潜んでいたスコールはデジタルが指す0:00の文字に少し苛立っていた。
単独セントラに乗り込んだはいいが、こう広くては人1人探すのが精一杯なのに、後から後から沸いて出てくるエスタだのティンバーだのの軍隊に身動きが取れなくなってしまったのだ。
を探したくても、うかつに行動してどこかに捕まってしまっては本末転倒。日が落ちるのを待っては見たものの、サーチライトくらい予想がつかないわけではない。むしろ暗い内は見つからずやり過ごせれば、朝になって疲れの出てきた各軍の目を欺く事も出来るかもしれない。そう考えていた。
空が白んで、が見つからない事に各国の上層部が苛立ち始め、会議でも始めてくれればこっちのものだ。そうしたら、また行動できる。スコールはそう踏んでいた。
、こんな事もう終わらせて、俺と帰ろう……
ESTHAR SIDE.
ネクタール半島の北端から東セレンゲッティ平原、そしてヨーン山脈に至るまでの海岸を埋め尽くすエスタ陣営の中に、ぽつんとテントが立っている。テントと言ってもエスタのものであるから、バラムの家族連れが休日に使うようなものとは違うが、地形を問わず設営できる簡易テントの中にニーダはいた。
このテントの中で、ニーダはしばらく前からキロスと2人きりになっていた。エスタを出る時にはラグナの姿はなく、ウォードは最前線の指揮に参加していて、ここに残ったのはキロスだけだった。ニーダは気まずいを通り越して、逃げ出したかった。
これまで生きて来た中で一度も目にした事のないような派手な服に身を包んだキロスは、それは険しい顔をしている。そして、ラグナの所在を尋ねても「彼は彼の仕事をしている」の一点張りだった。
全てを告白したニーダは、動揺も手伝って中々ラグナやキロスの言う事がなかなか飲み込めなかった。だが、この騒ぎの中にいてエスタに1人取り残されるのだけは嫌だと判っていたから、慌しく動くキロスの後ろにくっついてここまで来てしまった。
なのに、何も出来ないでいる。
閑散としているはずのセントラ大陸は今や各国の軍が詰め掛ける緊張状態。その中でエスタ軍は救助のために彼女を探している。他国と衝突にならないようエスタが持つ高度な技術を最大限に活用しながら、探している。だが、いつまで経っても見つからない。当然キロスの不機嫌の理由はここにある。
ニーダとてSEEDには変わりないのだが、あまりにハイレベルなエスタ軍の中にいて彼に出来る事など皆無だ。キロスに話し掛けようにも、とてもじゃないがそんな事を出来る雰囲気でもなさそうだ。
「……ニーダくん」
「は、はい!」
だから、突然名前を呼ばれて飛び上がってしまう。
「これは私の思い過ごしであってくれなければ困るのだが……『セントラの指先』が君の予想通りのものだとしたら、ここにいる我々は全員死んでしまうだろうね。だが、もし、そうではなかった場合、彼女は自らを……命を絶つような事はしないだろうか。私はそれが不安なんだ」
「セントラの指先」が危険なものである可能性に立ち向かっていくのは勇気のいる事だが、そうと決めてしまえばもう怖くはない。だが、危険なものではなかったとして、の言う宝がの期待しているものではなかったら……それをキロスは懸念している。
「たぶん、大丈夫じゃないかと思います」
ニーダは、キロスが拍子抜けするほどにさらりと言った。
「期待していたものじゃなかったら、それでいいんじゃないでしょうか。は、その、名声みたいなものが欲しいんだと思うんです。名声というと聞こえが悪いですけど、そう、歴史に残るような。だから、死んでもいいという覚悟でここには来ていると思いますが、わざわざ自分から死んでしまうような人ではないと思います」
セルフィ達は別として、ニーダはと一緒に過ごした時間が誰よりも長い。その性質が「付き合っていた」というものであるだけに、本人にも見えない自身というものがニーダはよく判っているようだ。
だから、「セントラの指先」を持っての前から消えた。
の事が判るから、どんな風に考えてどんな風に行動するか、手に取るように判ったから。ただに言いたい放題言わせていただけではなくて、の言葉をしっかり聞いていたから。そして、それを理解しようとしたから。
それは全部、ニーダの愛情によるものだから。
「……そうか、それならいいのだが」
キロスは何かを感じ取った様子で少しだけ表情を緩ませた。
SEIFER SIDE.
その頃サイファーは、セントラ大陸を彷徨っていた。
エスタ軍同様ネクタール半島から上陸したサイファーは、大統領の勅令とはいえ、軍人でもない1人の青年を放り出す事が面白くない小隊に見送られてその場を後にした。
真紅のクロスソードに剥き出しのハイペリオンはそれだけでも威圧感があるのに、ここへ来てかつてのサイファーが完全復活を遂げたかのように彼の表情は厳しかった。
セントラのカサついた地表にサイファーの立てる足音は無造作に響く。引きずったハイペリオンの切っ先はかすかな砂埃を舞い上がらせ、一筋の線を成して彼の軌跡とする。を求めて彷徨う亡霊のように。
遠くに見えるドールだかティンバーだかの軍を横目に見ながら、サイファーはセントラクレーターの中心部へ向かって歩いていた。そこにがいるという保証はもちろんない。だが、サイファーの知っているという女は、彼の期待を裏切らない女だった。それがどんな事であるにせよ。
だから、サイファーは直感に正直に足を進めている。
そうしている間に誰かが先にを見つけてしまうかもしれないなどという事は全く考えていない。ここまで来てしまったけれど、相変わらず彼の求めるのはただ1人で、他のものは、目に入らないのだから。
「セントラの指先」も宝もどうでもいい。
もう一度に会えるなら、それだけで。