それを罪と言うのなら

BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 039 / セントラクライシス21:00

セントラの大地にぽつんと月が昇る。

都市もないから、セントラの大地に人工的な明かりはない。だが、普段なら邪魔するもののない空から降り注ぐ星の光で、それは美しい光景であるはずだった。

それが、今や方々で無遠慮なサーチライトがその光景を台無しにしている。

を追って出動した各国の軍機関は、たかだか1人の少女を探すためにだとするならば大きすぎる規模だった。つまり、ガルバディアに限らずどこの国家であろうと、どこよりも先に「セントラの指先」を手に入れ、それを奪われないための兵力を携えているという事だ。

当然どこも軍機関の規模が一律というわけではないから、ガルバディアはそれ相応の規模であり、ドールなどはやや小ぢんまりしている。その中で出遅れたのはバラムだった。何も知らずにSEED軍に要請を出そうとした時には、SEED軍は施設ごと消え失せていた。慌てたバラムは警察を動員したが、おかげでとても頼りない人員の派遣と相成ってしまった。

かつては軍機関を持たず、ガーデンという存在に甘え、今となってもSEED軍に頼りきりだったバラムは他に打つ手がないのだ。

そして、その中でも最大の規模であるはずのガルバディアは現地に到着してバラム同様慌てる羽目になる。ガルバディアなど比較にならない規模のエスタ軍が動員していたからだ。UWMでこの件について唯一否定的だったエスタの介入が面白くないガルバディアは、エスタに駐留させている大使に焦って連絡を入れた。

大統領に取り次ぐよう要請する事5分。大統領が不在ならそこを叩くつもりでいたガルバディアは、ホットラインに受けて出た大統領の姿にまた動転した。エスタ大統領はまわりをぐるりとエスタ兵に囲まれて小さくなっていた。そして、自分はここを動けないが、軍を出した覚えはないと言う。

だが、これをガルバディアが本気で信じるわけがない。似たような造りの施設をセントラに持ち込むとか、いくらでも手はある。どっちにしろエスタ軍がここにいる以上、ガルバディアにとってエスタ大統領がセントラにいる事は今後の計画にとって最重要項目なのだ。

大統領がセントラに赴いていなければ、UWMの決議に反旗を翻してなおその決議に対して軍事的介入を行ったとして攻撃できない。エスタ軍がこの地に派遣されている以上その圧倒的な力の差の前に、そうであってくれなければまずいのだ。

だが、エスタに駐留するガルバディア大使によれば、大統領は確かにそこにいて、握手も交わしたという。ただただパニックに陥るガルバディアは、一刻も早くを見つけるしかなかった。そして、見つけたのならすぐにでも帰還しなければならない。

ただでさえ傾きかけているガルバディアが、エスタに適うわけがない。

そして、とうとうセントラ大陸の上には世界各国の軍が揃ってしまった。

その中には当然ティンバー共和軍もいる。ただし、この期に及んでもティンバー共和軍上層部はが自らの軍に身を寄せていた事を知らなかった。この頃になると、かつてに任務を言い渡した上司あたりはそれに気付いて騒ぎ出したのだが、それどころではない上層部は取り合わなかった。

また、自分達の復讐のために「セントラの指先」を欲したティンバーの黒幕たちも、激昂するほどの思いを抱きながらセントラの地に降り立っていた。が約束を守らなかった以上、それなりの制裁を加えてやらなければ気が済まないのだろう。

かつての「月の涙」による被害の後が生々しいセントラの大地は、荒涼とした地面を乾いた風の吹き抜ける何もないところだ。あるのは山のような塊に砂漠、ほんの少しの森林、申し訳程度の海岸、そして、なんのためのものか今となっては判らない遺跡がいくつか。

現在セントラクレーターと呼ばれている場所が、かつてのセントラ文明の中心地であったと伝えられているが、真相は定かではない。クレーターから南東に下ったヨーン山脈付近に最大規模の遺跡が確認されているだけである。

後世の学者達によれば、クレーターを有している諸島の南の大陸もセントラ文明の一部であるとされているが、それも今となっては知る術がない。カシュクバール砂漠を北東に置いたその大地は乾燥し、かつての大災害から未だ立ち直れないように見える。

クレイマー夫妻の孤児院がここにあるのだが、それを除けば他に目に付くものなど存在しない場所……それがセントラだ。

その「セントラ大陸」のネクタール半島から東セレンゲッティ平原にはエスタ。ポッカラヒレリア島にはガルバディア。そして、北セレンゲッティ平原にドール・ティンバー・トラビア・バラムが詰め掛けている。

が「セントラの指先」を発動させるつもりでいるなら、セントラクレーター付近でないと意味がない事をどこも判っているようだった。

その中で、SEED軍はだいぶ回り道をしてセントラまでやって来ていた。元々ガーデンシェルターはその大きさのために大陸間陸橋を超えられないので、バラムからセントラ方面へと降りていくにはティンバーに乗り上げる必要がある。

だが、考えなしにティンバーへ乗り上げて厄介ごとを増やすわけにはいかないし、エスタに乗り上げようと思っても大塩湖からウェストコーストは高低差のために乗り上げが不可能。そこでバラムの北、トラビアのウィンター島を越えてセントラに潜り込んだ。

エスタも含め各国がセントラの北から集まったのに対して、SEED軍は南から進入を開始した。その事についてはキスティスのお墨付きだっただけあって、セントラクレーターに乗り上げるまでどこの軍とも接触せずに済んだ。

セントラクレーターを中心に無数のサーチライトがを探す。

夜の闇に紛れた1人の女の手にある「至宝」を求めて伸びる光は、群青の空に円を作って月の光を食いつぶしている。

その光を眺めながら、ラグナもキロスもウォードも、セルフィもアーヴァインもキスティスも、そしてゼルもニーダもサイファーもスコールも、知っている。

あの光が求めているのはではなく、「セントラの指先」である事を。

その至宝が手に入るのであれば、それを持つ者などどうなろうと構わない事を。