それを罪と言うのなら

BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 038 / セントラクライシス15:00

ガーデンがそのボディを宙に浮かばせるのは、実に一年近く振りだった。

長年その操縦桿を握って来たニーダのいない今、その操縦を任されているのはSEED認定試験を目前にガーデンが崩壊してしまったという少年。キスティスがまとめた操縦マニュアルを僅かな時間で飲み込んでしまった。

……そうか~ゼルも大変だったねぇ~」

安定した操縦に安心しながら、アーヴァインはかつてのスコールの部屋でゼルと差し向かいになっていた。彼の演説のおかげかどうか、決起したSEED軍はセントラへ向かっている。その間、アーヴァインはゼルから自分達の知らない事を少しでも聞き出そうとしたのだ。

「別にオレは大変じゃないさ。大変だったのは……
「イヤ、みんな大変だったんだよ。ちゃんも、ゼルも」

かつて仲良くしていたゼルとがその関係の形を変えていた事に驚きはしたものの、アーヴァインはそれをとても喜んでいた。からかわれるものだとばかり思っていたゼルは、満面の笑みで顔をほころばせるアーヴァインに拍子抜けしてしまった。

だが、少なくともゼルはが自分だけを見ていたとは思っていなかった。

それは彼の勘であり、平たく言えば想像に過ぎないが、それでもゼルはの心の闇に気付いていた。きっとまだゼル自身やセルフィ達も知らないがどこかにいると、そう感じていた。

「ん~、まあ、そうだとしてもさ、全部これからだよ、ゼル」
「なにがこれからなんだよ? 判りにくいな」
は終わらせようとしてる……全部。だから、これからだよ」

アーヴァインはわざと言葉を遠まわしにしてゼルを惑わせたいのではない。アーヴァイン自身にも見えない未来の事を、ただゼルの安心のためだけに言葉にするのが怖かっただけだ。

ゼルの思惑とは別に、アーヴァインはなんとなくこの事件の全容が見えて来たような気がしていた。ゼルによれば、にはゼルとの生活以前に誰かと何かあったらしい事が判っている。そして、スコールともゼルとの生活以降に、何かが。

そしてセルフィの報告によれば、サイファーも確実に絡んで来ている。ニーダも共に国際手配となっている事から関わりが全くないわけではない。それを強引に一本の線で結ぶ事はしたくなかったが、アーヴァインの中ではもう繋がってしまっていた。

は全員と接触しながらこの事件を辿っている、と。

アーヴァインには、セルフィという最愛の者がいる。だが、それはそれとして、の魅力がまったく判らない訳ではない。むしろ、セルフィに照準を定める以前に過ごして来た間に培った目には、の持つ魅力など、簡単に映る。

もちろん仲のいい大事な友人でもあるから、それがどうだとも思ってはいない。だが、アーヴァインには判る。判りすぎるほど判る。

に惚れたら最後だと。

という女が持つ魅力の力は、それを失って初めて威力を発揮する。言葉や過去に縛られながら、どこまでも彼女を追い求める事になってしまう。だから、ゼルがトレードマークのトンガリを忘れてもを追うように、サイファーがトラビアまで赴くように、スコールが行き先も告げず消えるように……は心を惑わせる。

だが、それをゼル相手に言ってみたところで、また胸ぐらを掴まれるだけだという事くらいアーヴァインだって判っている。だが、アーヴァインとしては、この自分の推測を少なくともセルフィとキスティスは知っておくべきだと判断した。

……そうかしら」
「女の子には判らないかもしれないけど、たぶん」
「でも……判るかもしれない」

キスティスはあまりピンと来ない様子で腕を組んだ。だが、セルフィはどことなく思い当たる部分があるようだ。かつてそのために現在の後悔の元を作ったように、に人を惹きつける一種の魅力がある事を、セルフィは判っている。

「セントラに着いても、どうなるかなんて判らないけど、たぶん僕の考えは間違ってないと思う。だって、ただが『セントラの指先』をニーダから奪ってどうこうしてるだけなら、なんでスコールやサイファーが関わってくるのさ。そうじゃない?」
「確かに……きっと例のスコールの依頼も関係あるんでしょうね」

キスティスはニーダ捜索の依頼を思い出してため息をつきながら頷いた。

だいたい、キスティスはその依頼を介して、セルフィはサイファーの訪問を介して確かにこの事件の中に関わって来てはいる。だが、その全容についてとなると、まるきり蚊帳の外で、何とか力を貸してやりたいと思っても情報がなさ過ぎる。

そして、そもそもガーデンから「セントラの指先」と思われるものを持ち出したのはニーダであり、それがどういう方法での手に渡ったにせよ、それがなぜ国際指名手配級の罪になるのか、3人には皆目見当がつかなかった。

脅迫・強盗・危険物所持。これがの罪状であるが、「セントラの指先」は果たして本当に危険物であるのか、それを入手するために本当に「脅迫・強盗」をしたのか。そんな事すら知らないでいる。だけど、何もしないではいられない。

「おそらく僕達の知らない事はまだまだたくさんあると思うよ。だけどさ、知らないんだからを守ろうとしたって、仕方ないだろ? SEED軍の主はいないんだし、それはスコールの責任さ。手伝ってくれてるみんなに咎はない」
「そんな風にオトナが思ってくれるとは思わないケドねぇ~」
「ふふふ、そうよねぇ。私達は捨て身の覚悟、あるけど……

3人はブリッジ下に据えられた司令室の片隅で、クスクスと声を殺して笑った。

まだまだ大人の駆け出しに過ぎない自分達が、どんなに無謀な事をしようとしているか、そんな事は充分すぎるほど知っている。本来ならば、SEED軍の者達も巻き込むべきではない。それもちゃんと判っている。

だが、1人守りたいがために彼らを引きずり出し、危険な目に合わせてもいいと思ってる。SEEDなのだから、SEEDを望むなら、それはむしろ歓迎すべき事で、逃げ出したいなら止めはしないのだから。

そんな事を大人は考えもしないだろう。子供も怖くなるかもしれない。だが、若者という人種はそんな事に頓着しないものだ。キスティスだけはこの事に考えが及ばないでもなかったが、あえて問わなかった。それだけ自分達の行動は予測されないものであるはずだし、それが事態の好転に繋がればそれに越した事はない。

「さて、そろそろ着く頃ね。セルフィ、準備は大丈夫?」
「うん。徹夜しちゃったけど大丈夫だと思うよ。途中で止まったりしなきゃ」
「こ、怖い事言うなよセフィ……

3人は立ち上がってそれぞれ身体を伸ばすと、窓の向こうに近づいてくるセントラの雄大な大地を眺めた。かつて何度も訪れ、幼い頃には自分の家があった場所、セントラ。

そのセントラのどこかに、はいる。