それを罪と言うのなら

BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 033 / ニーダの告白2

は異常な程「セントラの指先」に興味を示しました。

の興味の示し方に僕自身も不安に感じる事があったくらいですから……それは相当なものでした。けど、僕にはなぜそんなに興味があるのか尋ねる事は出来ませんでした。正直、怖かったんです。

あまりに執着するからどんな答えが返ってきても動じないでいられる自信はありませんでした。そこで例えばが恐ろしい目的の為に「セントラの指先」を欲していたりしたなら、僕はごと拒否してしまうような気がしたんです。だけど、とは別れたくなかった。

だから、が想像の中でこれ以上「セントラの指先」に期待をかけすぎないように、現実が目の前にくれば少しは落ち着いてくれるだろうと、「セントラの指先」に関する資料を探し始めました。……浅はかでした。

簡単に手に入る資料の殆どは歴史のミステリーを判り易く、面白く、ただし正確ではない文章で書き綴られているものばかりで、そこに説得力はまったくありませんでした。

だけどある日MD層で……あの、ガーデンの地下、エンジン部の事ですが、そこのオペレーションルームらしい部屋から散乱した書類が見つかったんです。書類と言っても紙切れがバラバラに数十枚あっただけですが、明らかに現代のものではありませんでした。

教科書で見た事のある古代文字で書かれているのに、紙には一切の劣化が見られないんです。変色も腐食もどこにもありませんでした。それだけでそれがセントラ時代の遺物である事は明らかでした。

もちろん僕は解読なんて出来ませんでした。

だけど、その書類には、絵が描かれていたんです。今でも……その書類が文字だけで書かれていたならと痛切に思います。絵があったから、それも精巧で精密で、想像をかきたてるのに充分な絵だったから……

がさらに夢中になるのも無理はありませんでした。

その資料は……僕が処分してしまいました。には一度見せただけで、その反応を見て僕は危険と判断したんです。それで、処分しました。火をかけても焼けなかったので、ガーデンエンジン部のギアに吸い込ませました。しばらくはギアの間を行ったり来たりしていましたが、その内ボロボロになって、おそらく今も最下層のオイルや埃の中に散らばっているでしょう。

絵は、鮮明に覚えています。

僕との判断では、「セントラの指先」と思われるものを使用した際の挿絵のようなものだと思います。まず、「セントラの指先」らしい物体が宙……といっても対比対象として描かれていた人間より少し高い程度ですが。そこに浮かんでいます。

それが発動すると、人間の体長の約5倍以上の機械仕掛けの尖塔が現れます。どこから……というのは判りません。続き絵で、「セントラの指先」を発動した絵の次は、もう尖塔が現れています。その尖塔は、最上部から何か……平たいもの放ち、そこから地上に向かって何かを射出します。

その射出された何かは……地上と、そして、人間に当たっていました。

次の絵では、その何かを受けた人間が両手を上げて上を仰いでいて……そして、絵の描かれた枠いっぱいに円形の線が描かれていたんです。尖塔よりもはるかに大きな円でした。その円の中心は、尖塔の付近です。

僕は、それを兵器だと判断しました。

絵の横の添え書きがまったく判らない以上、絵だけで判別するしかない。だけど、どうとでも取れるその絵に、危険な要因が全くないと僕は思えませんでした。

これは僕の考えですが、ガーデンは後に学園として機能させるために建て付けた部分を除いてもかなり大きなものです。それが、元々はシェルターだというんです。エンジン部だけでもバラムにある集合住宅より大きいんです。とても、個人所有のものとは思えませんでした。

つまり……、その、僕は、当時セントラの軍事関係ないしは要人の為のシェルターで、その要人と同時にセントラの貴重なものを持ち出せ、そして守れるものであったのではないかと思いました。要人と共に貴重で危険で誰かの手に渡ってはいけないものを、と。

もちろん僕もまず伝承の事を考えました。

僕達が知っている伝承は「セントラの指先」は富を生む宝器だという事でした。それがどう富を生むのかとかそういう事は含まれていません。とにかく御伽噺に出てくる魔法の水晶球のように、使用した者に富と幸福をもたらすものだと、そう聞いています。

ですが、この話には続きがあって、「セントラの指先」はその力で使用者に富を与えるが、使い方を間違えると多くの人を殺してしまうという極端なものでした。

……みなさんがご存知のものも同じですか。

では、それに兵器を連想した僕の気持ち、わかってもらえますか?

その兵器を使用して敵に打ち勝てば少なくとも自分の味方へは富も幸福も舞い込むでしょう。だけど、使い方を間違えればそれすら死に追いやってしまうもの……それは何かを破壊する兵器だと僕は思いました。

そうですよね……ガルバディアなんかが食らいついてきたのはこれに拠るんでしょうね。

もしこれが兵器でないのならそれに越した事はありません。ですが、解読もままならない書類に描かれた絵だけを頼りに「セントラの指先」を発動させて、それで多くの人が死んでしまったら、どうにもなりません。

ですが……はそれを認めようとしませんでした。

あくまでも「セントラの指先」は富と幸福をもたらす宝だと信じていたようです。それは僕達が別れてしまうまで覆る事はありませんでした。

だから、必死でMD層を漁って……それらしきものを見つけた時は、に知らせないまま姿を消す決意をしていました。七色に光る球体に、古代文字らしきマークのついた小さなプレート。それだけを持って僕はFHに逃げ込んだんです。

え、判りますか? あの、文字とも図形ともつかないマークですよ? ……アクセサリーのモチーフ? そうなんですか、覚えています、見せてください!

……これと、あと、これです。この2つです。

訳は……化学式……ですか?これは水ですよね。はあ、科学の教科書。残っているんですか。それによると水……。あとは人間ですよね……。人間と水……。あの、すみません、差し出がましい事を言うようですが……

科学は得意ではないんですが……水は水素と酸素が化合して出来たものですよね?

水素の核融合反応を利用した兵器……

確か、そんな言い伝えもありませんでしたか?今もそんなものがどこかにあるのかどうかは知りませんが、セントラはあまりに発達して、発達しすぎて、月の涙で降って来たモンスターに壊滅させられたというより自爆したんですよね?

セントラの科学力を持ってすれば対処できないようなモンスターではなかったのに、それによる被害で機械都市が逆にセントラ文明を壊滅に追いやったんですよね?それもこんな兵器が存在していたならではと考えるのは危険ですか?

それが……の手にあるとしたら……

いいえ、駄目です、無理です。どうしてもこの不安が消えないんです。安全なものであるならいつまででもの手にあってくれて構いません。だけど、それが僕が推理したような危険物だったとしたら、は後世にまで名が残る犯罪者……いえ、虐殺者になってしまいます!

そんな事、耐えられません!

僕はいいです、ガルバディアに引き渡して下さっても構いません、お願いです!を助けて下さい!もう皆さんしか頼れる人がいないんです!

お願いします……を助けて下さい……

彼女はただ、歴史に名を残したいだけなんです!