それを罪と言うのなら

BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 017.5 / 傍観者2

ガルバディア(以下ガ国)――「まず、我々がそのような噂を耳にしたときは誰もそれを真実とは受け止めませんでした。他ならぬその噂の元が我が国の軍の若者の間の流行噂でしかなかったからです。ですが、事が事なだけに、我々は彼らの直属の上官たちに噂の内容を報告するように求めました。そして返って来た報告によると、『セントラの指先』を探していた者がいるという話のようでした。その若い兵士達の話によれば、場所はバラムガーデン、校舎の中だというのです」

バラム――(以下バ国)「我々はそのような噂すら聞いておりませんよ」

ガ国――「それについては我々はコメントしかねます。私達もよくある都市伝説のようなものだとしか思っておりませんでしたから。話を元に戻します。しかしてその噂を持ち出した本人も当事者ではなく年長のSEEDの数人がそれに関わっていたらしいと報告を受けています。しかし発見されたかどうかは現在も定かではありません」

トラビア――(以下ト国)「では今回の会議は何のためのものですか」

ガ国――「問題はそこからです。噂の張本人は『セントラの指先』が探されている当時にガーデンを卒業してしまい、その結果は知るところではありませんでした。ですが、その後卒業し、我が国の軍に入ってきた兵士が続報を携えてやって参りました。皆様ご存知のようにガーデンに在籍した生徒はその殆どが卒業後何らかの軍事関係、ないしは警察など武力を必要とする場所に就職していきます。それは学校の性質も手伝って一般企業に就職するよりも遥かに誉れ高い結果であるはずです。当然優秀な成績を修めている者は引く手数多であり、そのような人材がまるで無関係な場所へと巣立っていく事は殆ど無いといっていいでしょう。ですが、後述の兵士によれば噂による『セントラの指先』探索関係者の内、2名が行方不明、1名が進路不明となっています」

ドール――(以下ド国)「行方不明者が持ち去ったという事ですか」

ガ国――「そして、その捜索関係者は4人であり、最後の1人は皆様もよくご存知のスコール・レオンハート、現在のSEED軍全権指揮官です」

(ここで各国の使者の目が一気にエスタへと向く)

エスタ――(以下エ国)「な、なん……

ト国――「我々が存じ上げないとでもお思いですか」

エ国――「いえ、その、私どもはそのような情報は……

ガ国――……ないでしょうね。しかし取り敢えずの所彼は持ち出してはおりません。『セントラの指先』が探されていたガーデン校舎に今もいるのですから。さて、その先でありますが、先ほど話しに上りました行方不明者の内1人が持ち出した可能性が高い事は事実です」

ト国――「では誰が……

ガ国――「そのスコール・レオンハートを除いた3名のうちのひとりが持ち出したらしい事は判っていますが、その後再び何者かの手に落ちたと報告が参りました。それが皆様に『UWM』への召集を発送いたしましたきっかけでございます」

ティンバー――(以下テ国)「しかしそのような情報、如何にしてガルバディアは……

ガ国――「我々にも『指先』があるという事です。それについて深追いなさる事は問題になりますぞ。では、今現在確実と我々が判断した全容をご報告いたします。それについてのご質問は報告が終わるまでお控え下さい」

(ここでガルバディアの担当者らしき人物が代表者と交代)

「まず、その「セントラの指先」捜索関係者ですが、以下の4名になっております。当時のバラムガーデンSEED部隊所属、スコール・レオンハート、サイファー・アルマシー、ファミリーネーム不明のニーダ、です。

時を同じくして生徒であった者の話によると、「セントラの指先」捜索の発端はガーデン操縦者であったニーダだとされております。そこへ、何らかの関係があったであろう残りの3名が参加したと思われます。

しかし、皆様もご存知のガーデンの存在について賛否両論が巻き起こった時期がちょうどこれと同じであります。それゆえこの件に関して詳細を知るものは当事者のみとなっているようですが、スコール・レオンハートを除く全員がガーデンを去った後、操縦者を務めた者が現在当ガルバディアにおります。その者の話によると、引継ぎを終えて仕事に就き、よりよくシステムを理解するため降りたエンジン部は一部が荒らされ、方々に穴が開いていたとされています。操縦者であるニーダとの引継ぎはニーダが卒業する当日まで3日に渡って2人だけで行われており、その間外部の人間の侵入はほぼ100%不可能であったといいます。

また、その引継ぎが開始された当初のエンジン部は至って正常であり、持ち出す事が出来たのは卒業していくぎりぎりまで鍵を所持していたニーダ以外にはありえないようです。従って、最初に「セントラの指先」と思われる物を持ち出したのはこのニーダであったと思って間違いないと思います。

その後のニーダの所在は不明でありましたが、先日FHに居留している事が判明いたしました。なお、現在も彼はFHにおりますが、住民の話によると、常に部屋にこもって何かを研究していたとされる彼が日がな海を眺めて何も言わずに過ごしているといいます。また、数日前には彼と深刻な顔をして話をしていた女性が目撃されています。容姿などを照らし合わせると、どうやら先述のと見て間違いないようです。我々は、彼女が現在「セントラの指先」を所持しているものと考えています。

そして、同様にスコール・レオンハートも後日FHにて目撃されています。住民にニーダの家を聞いて回っていたようだという事で、彼もこの件に荷担していると見て間違いないでしょう。

そして残るサイファー・アルマシーですが、トラビアへの入国を確認しております。これの目的は不明、関与も否定は出来ないものの可能性はゼロではないと思われます。

以上、現在の状況報告です」

(ここで再びガルバディア代表と交代)

ガ国――「これらは我々が独自に調査したものではありますが、確かな情報であると思って頂いて間違いないと思います」

ド国――「その持ち出された物が「セントラの指先」である事は確かなんでしょうな」

ガ国――「それは確認のしようがありませんが……ガーデンもセントラ時代のものですから非常に高い可能性があると我々は考えております」

ト国――「バラムはそれも知らないと仰るのですか」

バ国――「我々がガーデンを認可した当時の説明では旧世代の個人用シェルターだという事でしたから」

ト国――「確認検査もされなかったのですか」

バ国――「現在のように増築される前は今よりも小さなものでしたし、ガルバディア・トラビアにもありますものと全く同じでありますよ。それはどう説明されますか?」

ド国――「今はそれよりも『セントラの指先』の方が問題なのでは?」

テ国――「やはりガーデンは早々に取り潰しておくべきでしたな」

ド国――「しかし今更そんな事を論議しても始まりますまい」

ト国――「詰まるところそれが『セントラの指先』である確証も物証も無いが可能性は高いと言うのですね」

ガ国――「我がガルバディアでは、所有者でない者が建造物の一部を破損して持ち去る事は軽犯罪法違反となっていますが、バラムではどうでしょう?」

バ国――「厳密にそうと決まってたわけではないでしょうが……そのような事例は盗難になる事もあります」

ド国――「我がドールでは一般人の危険物所持という事だけでも犯罪と認定しております」

(ここでガルバディア代表者起立)

ガ国――「我々ガルバディアは、ニーダ、の両名を、国際指名手配とする提案をここに申し立てます。各国の皆様に了承が得られましたらば、即刻FHにおいてニーダは任意同行の後に事情聴取とします。に関しては第一級指名手配として全世界に勧告を行います」

(ここでエスタ以外の各国が認証のランプを点灯)

エ国――「ちょ、ちょっと待ってくれ!そこまでしなくてもいいだ……いいんじゃないですか!?」

ガ国――「『UWM』の決議は賛成が過半数を超えるものとされていますよ」

エ国――「いや、そういう事じゃなくて!全員まだハタチそこそこの若い子じゃないですか!それが『セントラの指先』だって決まったわけでもないのにどうしてそんなにひどい事が出来るんですか!」

ド国――「二十歳そこそこでも犯罪を犯せば犯罪者でしょう」

エ国――「だから!それが犯罪だってどうして決め付けるんだ!」

バ国――「お言葉は慎んだほうがよろしいですよ」

エ国――「そんな事はどうだっていい!ガーデンの連中はそれこそ命をかけて未来の魔女からオレ達を守ってくれたんじゃねえか!それなのにガーデンは危険だとか言い出してあの子達を苦しめて、そんで今度は指名手配!?あの子達はあんた達に振り回されて行き場が無くて必死で生きているのに、どうしてそんな事ができるんだ!」

ガ国――「ご自身のご子息を気にかけるのも仕方ありませんが…」

エ国――「オレはそんな事言ってない!あいつが何かとんでもねぇ犯罪したんなら死刑にするなりすればいい!オレは親だがあいつ自身じゃないからそんな事は言ってない!」

ド国――「かの事件に関しましては感謝はいたしますがそれはそれで別の話ではありませんか。そもそもガーデンはその為に作られたものであり、未来の脅威が過ぎ去ってしまったのなら即刻解体すべきだったのですよ」

バ国――「現在は我が国の軍ですから。誤解なさらないで頂きたい」

(ここでエスタ代表起立)

エ国――「あんた達は……なんのためにあの子達をそうやって追い詰めるんだ。『セントラの指先』を持っているかもしれないなら探して確かめればいいだけの事でしかないはずなのに、どうしてあの子達を苦しめるんだよ!!」

ガ国――「そうやって探すだけでは不可能な範囲に潜伏している事もありますからね」

ド国――「そしてもしそれが本当に『セントラの指先』であり、危険なものと判断された場合、エスタはどう釈明なさるおつもりで?」

エ国――「もし、だったら、そうだった場合!あいつらを悲しませるなよ!!」

(ここで全代表起立)

ガ国――……どうやらエスタ大統領殿はもっとたくさんの事をご存知のようですね」

ト国――「ただでさえ高い軍事力を持ちながらまだ欲するとは!」

(ここでエスタ代表団官僚が起立)

エ国――「皆様、落ち着いて下さいませ。当方の大統領の数々の無礼は私が成り代わりまして深くお詫び申し上げます」

ガ国――「君はな――

エ国――「しかし!ガルバディアにおかれましては今回の件に関する情報を独自に調査されその経緯については深追いを禁じ、状況説明としただけであり、ご存知の事柄全て発言されたとは一言も申し上げてはおられません!また更にそれはここに居られる各国の代表者様全てに言える事であり、何も『UWM』の場はそれぞれが所有している情報を包み隠さず暴露する場ではなかったはず!慎んで頂きたいのは皆様も同じ事であります!また、付け加えますならば、我が大統領のご子息はもう何年もエスタには足を踏み入れておらず、父親である大統領本人の再三の呼びかけにも応じないままとなっております。彼の詳細を誰よりも知りたいのは我々を置いて他にないと言えましょう」

ガ国――「言い分は了解した。しかし、これは賛成過半数の決定です」

(ここでガルバディア選出による会議進行役起立)

「ではここに、ニーダ・両名の第一級国際指名手配についての提案が賛成過半数を超えましたので、決といたします」

会議進行役が鳴らした木槌が会場中に響き渡る。その音が余韻を残して空に溶け込む中、エスタ大統領は机を力任せに叩き付け、うな垂れた。

5時:会議終了
我々傍聴許可者達は再び元の部屋に戻され、今回の件についてガルバディアから協力を要請された。私には結果は予想の範囲であったのだが、厄介でもあり、都合が良くもある。これに限らず私の報告を続けて読まれている方には知れた事であろうが、現在調査が完了していない都合上これ以上の加筆は割愛させて頂く。