それを罪と言うのなら

BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 002 / ニーダの行方

バラムの国家公務員になってもう1年。まだまだ下っ端のキスティスがガーデンに書類を届けに来たのは、広い意味で騒ぎの多かった生徒達が卒業してから半年も経たない頃の事だった。

何もしないでは通れないカードリーダーに少し寂しさを覚えつつ向かったのは、元・学園長室。現在は全SEED軍の総司令本部。

その一番奥で相変わらずのしかめっ面をしているのは暫定指揮官殿、スコール。

「お忙しい所申し訳ありません司令官殿?」

わざとらしく挨拶したキスティスに、スコールはさらに眉間の皺を深くした。

「…説教しに来たのか」
「そう思ってるならしてあげましょうか?」
「結構だ」

魔女アルティミシアの計画を阻止して、ハッピーエンドだと思っていられたのは、事が片付いてからたかだか半年程度だった。各地で事件の処理が進む中、ガーデンは突然世界中から牙を剥かれる。

スコール達が人知れず未来の恐怖から世界を救ったと思ったのは、ガーデンの生徒と事件に関わった者くらいなもので、各国の要人たちはまったく正反対の見解を示した。

《10代でありながら戦闘知識をふんだんに備えた少年少女のテロリズム》

当然最初にこんな事を言い出したのはガルバディア。D地区収容所から脱走されて面目丸つぶれになったのが原因である事は明白だが、依頼者がいるはずの魔女暗殺での騒ぎなども国内で勝手に吹聴した。

《両手に満たない人数の暴徒から我が軍が受けた被害は甚大である》

ガルバディアがわめき出した頃は「ガ軍が弱いだけだろう」と傍観を決め込んでいた他国も、元ガ軍兵士がSEED批判の波に乗って出版した手記により見解を改め始める。

《子供の独断による戦闘行為の危険性に気付かなければならない》

当然クレイマー夫妻は躍起になってそれを否定するが、思い返すとガルバディア以外の国家も覚えがないわけではない。ラグナ大統領とて、庇いきれるレベルの騒ぎでなくなってしまった。

その裏には、各国の軍事力を凌ぐ力を持っていると違う意味でアピールしてしまったガーデンという存在への脅威、そしてそれを排除してしまいたいという思惑もあっただろう。加えて、あわよくばその戦力を手に入れたいという意図も。

かくして各国はSEED制の廃止とガーデンのカリキュラムを改めるようガーデンに申請する。そして、それが受け入れられたのなら卒業生は余すところなく各国で引き受けると。

そこで困り果てたクレイマー夫妻を一喝したのは、スコールだった。誰にも何も言わずクレイマー夫妻とだけ話を進めてその講和と称されたものを受け入れる事にした。

どうせ進路はエスタだろうと思われ、実際エスタから声がかかったにも関わらずスコールは進路を明らかにしなかった。卒業まで何も言わず、ただひたすら沈黙を守り通して仲間たちが進路を決めて卒業した…10日後。

スコールはガーデンという学園を事実上崩壊させた。

そして、同期の合同卒業イベントのためと称してトラビアとガルバディアから予め召集しておいた生徒を抱え込んでSEED軍を旗揚げする事を世界中に宣言した。

クレイマー夫妻はこうなる事を、知らなかった。

「世界中のバカな大人たちからガーデンを守ったんですものね、指揮官殿は」
「そう思ってるならそう思えばいいだろう」

この暴挙を敢えて受け入れたのは、バラム。全校が終結して出来たSEEDを含むガーデンは一大軍事組織に他ならない。それを保持していれば、穏やかさだけが売りのバラムもガルバディアやエスタに肩を並べられる。

「おかげさまでセルフィたちと絶縁状態よ」
「残念だったな」
「ええ、とってもね」

このスコールの下克上を知る由もない仲間たちは各国へと散っている。この緊張感漂う情勢では行き来はもとより、連絡らしい連絡も取れない。

「用件はそれだけか」
「あら、まだあるわよ。頼まれてた調査の報告」
「見つかったのか」
「こんな事、あなたたちでやってほしいものだわ。見つかるわけないじゃない」

今回キスティス…つまりSEED軍の本体であるバラム国家保安庁…にスコールが依頼したのは、ニーダの現在位置だった。

「なんでニーダなのよ?彼が何をしたのよ」
「答えると思うか?」
「…思ってないわよ。これ、報告書ね」

乱暴に書類の束を投げたキスティスは、そのまま立ち去ろうとして足を止めた。それすら気にとめていない様子のスコールは報告書の一番上のページに目を落としている。

……ニーダの行方は知らないけど。意外な名前なら出てきたわよ」
……親切だな」
……聞きたくないなら言わないわよ」

眉を吊り上げて振り返ったキスティスに、スコールが近寄る。腕組みをして首をすくめ、大きく息を吐く。

「サイファーか」
「その通りよ」
「何が意外なんだ。そんな事は…」
の名前も出て来たと言ったら?」

それまでしかめっ面に加え、はっきりしない物言いを続けていたスコールだったが、突然キスティスに掴み掛かった。

「どういう事だ!」
「さあ?あなたの読みの向こうにはまだ何かあるんでしょうね」
「何を知ってる」
「調査の以来の過程で、の名を聞いただけよ」

焦っているともうろたえているとも取れなくはないスコールを突き放してキスティスは背を向ける。ブーツを脱ぎ捨てた脚を乗せたパンプスが固い音を立てて去って行く。

「ごきげんよう指揮官殿」

ほんの数ヶ月前までただの学生だった幼いSEED軍将校たちは、その光景を冷ややかな目で見ていた。優秀な先輩と、上官のあまり美しくない会話。そんなもの、もうSEED軍にしか居場所を見出せない彼らには疎ましいものでしかなかった。

……なんでお前が……?」

言わないだけで、人一倍思惑を抱え込んでいる指揮官は椅子に倒れこんだ。見つからないニーダの代わりに飛び込んできたの名前、出てあたりまえだと思っていたサイファーの名。

どちらも、彼の安心材料にはならない。かえって不安を煽られるだけだ。

一刻も早く、ニーダを見つけなければ。

しばらく経った後、指揮官はSEED軍上層部にだけ断りを入れてバラムから消える。