それを罪と言うのなら

BARAMB GARDEN SECRET FILE : CODE 001 / キスティスの回想

まず始めに言っておかなければならない事がある。

それは、に悪意があったわけでは絶対にないという事。

今でもこれだけは絶対に譲れない。私の記憶の中のは悪意の欠片もない人だった。知っているから、私が好意的に彼女を見ているから。そんな見方が出来たとしても、私の世界にいる彼女はそうだったのだからどうしようもない。

そして、と言う人は、純粋に目の前にある道を進んで行くだけだった。

もちろん迷いだとか、葛藤もあったと思う。だけど、流されたりだとか、自分の意志に背くような事はしない人だった。そういう所、私も好きだった。

だけど、私がなんと思っていようと…もうそれもあまり意味がない。彼女の罪だとされている事はきれいな言葉で表現できるものではないし、それを否定してくれる人も少ない。

でも、みんな庇おうとしたのよ。知っていたから、解っていたから。

けれど、私たちというのは、ガーデンを巣立ったばかりのいわば新社会人で。武器を振りかざすには経験も知識も足りなかった。熱意とか、想いとか、愛情とか。そういうピュアなものしか持っていなかった私たちは弱かった。

庇う、という理路整然とした理由を持たない行動をラグナ大統領や学園長が取らなかった事を私は責めるつもりはない。それが大人と言うものだという事くらいは私にだって解る。それに、彼らがを庇い立てしてしまったら…私たちは一生平穏な生活を取り戻す事もなかった。

のたどり着いた道。わざとそんな道をが選ぶわけがない。けれど、結果的に私たちは彼女が罪を背負う事になってしまったからこうしていつもの生活に戻っていられる。

それを忘れたくない。

忘れてはいけないと思う。

人を思うという事、思われるという事、それが無責任なものであっても汚いものでもやっぱり愛しいという事。

ただ傍観するしかなかった私にも…は残して行った。

彼女の記憶と共に、心の痛みと一生消えない傷を。

彼女が今どこでどうしているのかを、私は知らないけれど、きっともう会えないと…理由もなくそう思う。これ以上犯した覚えのない罪を増やさないように、あの真剣な眼差しを閉じ込めて静かに暮らしているだろうから。

だから、誰も追わない。

彼女の罪を敢えて飲み込んだのかが誰なのかも知らないから。

でも…そうね。
始まりは…始まりはやっぱり世界中から私たちが見捨てられた事だったと思う。大人という人種になりたての私たちには、なんでそうなってしまうのか全く解らなかったけど、とにかく私たちは思わぬところでしっぺ返しを食らった。

それでも私たちは争いと縁を切れなかった。それしか…知らなかったから。

誰が言い出したわけでもないけれど、私たちは卒業試験を受けないままずっとガーデンで生活していた。たぶん、取り戻した記憶とか、かけがえのない時間を共有した現実がそうさせていたのだとは思う。まだ私たちとは少し距離をおいていたサイファーでさえ、同じだった。

だから、私は20歳になるギリギリの所で卒業試験を受けた。教員試験をもう一度受けても良かったのだけど、それでは成長できないと思ったし、またみんなが次々と20歳になってガーデンを巣立って行った時取り残されるのはもっとイヤだったから…。

そうして私とサイファーが20歳になる前にガーデンを出た。
私はバラムの国家保安庁に入った。サイファーは行く場所も告げずに消えた。

翌年、ガーデンが少し大変な事になったのだけど…その前に、スコール以下、あの時のメンバーが揃って卒業試験を受けた。7月に1番早く20歳になるセルフィですらまだ19歳の時の事で、早生まれのゼルは19歳になったばかりだった。

でも、なんとなく離れ難かったし、自然な事だったと思うわ。
結論から言うと、スコールはエスタからの要請を断ってガーデンの暫定指揮官に。
ゼルはドールの陸軍で格闘技の教官補佐の職に就く。
セルフィはトラビアに戻って空軍に仕官した。
アーヴァインはガルバディアに呼び戻されて強引にトラビア大使館に。
ニーダはFHに行くと言って…その後は判らない。

そして。スコール達と同じくガーデンを出て、彼女が最初に見つけた居場所はティンバーの共和軍の情報部だった。

文字通り、みんながみんな、世界中に散らばった事になる。

つまり…これが、すべての原因だったのよ。殆どがイデアの孤児院出身だった事とか、そんな偶然は大した事じゃない。

ガーデンという屋根を出て外に飛び出た私たちが求めたのは、地位とか、功績とか、名誉とか、そんなものではなくて…。

ただ心を許せる誰かの傍にずっといたい。

それだけだったんだと…そう思いたい。

始まりは、春。