ガールズ、レディ!

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みなさま大変ご無沙汰しておりますです。

3月、私は無事に翔陽高校を卒業、4月からはかねてよりの志望校へ進学が決まっています。受験は大変でしたが、元々日本史が趣味ということもあり、そこだけは勉強する必要がないというか、歴オタにとっては常識なことばかりズラズラと並んでいて、ちょっとだけ楽をしました。

一方、文系女子あるあるで私は大変な理系音痴でして、それは予備校の先生に苦笑いをされるほどで、そこは人より余計に苦労したのではないかと思うと、結局プラスマイナスゼロ、と言えるかもしれません。

しかしそんなつらく厳しい受験生生活も終わりました。

自虐の上に自虐を重ね、その上歴オタという点を除けば主体性に弱く、すぐに人に影響されては芯がブレまくること18年だった私ですが、幸い現役で志望校に合格、そして大好きな彼氏もいて、なおかつ彼氏のお姉さんとも仲がいいという、身に余る果報をありがたく享受しております。

高3に進級した当時はモゴモゴとコミュ障特有のおどおどした喋り方をしつつ、内心ではネットスラングでツッコミを入れまくっていたものですが、彼氏のお姉さんたちに影響されまくること数ヶ月、こうしてすっかり一般的な言葉で思考ができるようになりました。もう「オゥフ」とか言いません。

……すみません、嘘つきました。歴オタでもなんでもオタクはオタク、ネットではネットスラング使って毎日毎晩喋りまくっています。たかだか18年でもオタクはオタク、オタクとは生まれ持った体質のことなので治すものではないし、治りません。もちろん、恥ずかしいことでもありません。

実際に口に出して「フォカヌポウ」とか言わなきゃいいだけの話です。

ついでにちょっと聞いて下さい、私の彼氏、健司くん。

健司くん、すごくかっこいい人なんです。バスケ部で、アイドルみたいな顔してて、明るくて楽しくて優しくて、そういう作り物みたいな人で、だけどなぜか私のことを好きと言ってくれて、最初は戸惑ったけど、今ではすごく感謝してます。大好きです。で、彼にはお姉さんが、ふたりいます。

1番上のお姉さん、千代子さん。2番目のお姉さん、八重子さん。

ふたりは私たちよりだいぶ年上で、大人のお姉さんです。実際の年齢は聞いてはいけないことになってるので、私は知らない。健司くんは当然知ってるはずだけど、あんまり話題にしたがらない。というかもしかすると正確なところはわからなくなってるかもしれない。

千代子さんは、たぶん会社員。八重子さんは、たぶん販売員。その辺はあんまり詳しく知らない。ふたりは「仕事の話はどうしても愚痴が出るし、まだ社会を知らない姫に愚痴で先入観を持ってほしくない」と言うので、仕事の話はしないことになってます。あ、ふたりはまだ私のことを姫と呼びます。やめてほしいんだけどね。

だけど、そういうことをサラッと言えるような、優しくて頼もしいお姉さんたちなんです。健司くんも背が高いけど、お姉さんたちも高い。子供の頃、大人になったらお姉さんと喧嘩しても勝てると思ってた健司くんは、未だに勝ててない。お姉さんたちは豊満なボディの中にしっかり筋肉を持っていて、強い。普通に強い。

もしかして健司くん、そうは言ってもお姉さんたちに遠慮が出てしまって、女性相手だと思うと手加減しなきゃって思っちゃうんじゃないの? と聞いたら真顔で「全力でやっても負ける」と返されちゃった。健司くん、私のことお姫様抱っこして走れる人なんだけどね……

お姉さんたちは、それでもまだ「健司は本気が足りない」と言う。健司くんは何でも一生懸命なんだけど、千代子姉さんは「どうせやるなら殺す気で来い」と言うし、八重子姉さんは「小賢しい手なんか使わずにド真ん中を攻撃しろ」と言うし、ふたりにとっては健司くん、まだまだ甘いそうだ。

でもでも、私はこのお姉さんふたりが大好き。本当に大好き。最近SNSで「チエコは彼氏が好きなのかそれとも姉が好きなのか」と突っ込まれることもしばしばで、そしてハンドルネームはもちろんふたりの名前を混ぜたものなので、このすぐに人に影響される癖は依然現役です。

さすがの健司くんも「それは主体性がなさすぎないか」と何度も呆れるし、健司くんとは高校3年間相棒状態だったバスケ部副部長の花形くんも「依存が過ぎるとあとが怖いぞ」と言うんだけど、今のところ影響されてるのはいわゆる「外面」にあたる部分なので、私は問題ないんじゃないかと考えてます。

健司くんと花形くんが嫌そうな顔をするのは、主に私の外見に変化があったからだ。

千代子姉さんはスプリングのような茶のきつい巻き髪、八重子姉さんはプラチナブロンドのショートボブ。ふたりともくっきりと濃い目のメイクに、暴力的なまでに豊満な、しかし要所要所はギュッと引き締まった迫力ボディ。まあもちろん、それの真似をしてるわけじゃない。肉が足りなくて出来ません。

それまでの私というのは、黒髪ロングストレートで、美白命、ドールメイク、ロリ服まではいかないけど、クラシカルな装いを好んでました。露出はしません、夏でも半袖ブラウスが限度で、スカートも膝丈厳守、下着もエロさがにじみ出るようなものは言語道断、ピュア系で揃えてた。

……というのも未だに好きです。それをすっかりやめちゃったわけじゃない。だけど、そういうのと並行して、そうじゃないのも楽しみ始めたと言えばいいんだろうか。高3の秋に初めてジーンズを買った時は正直足が震えたものです。ちなみに受験前のラストデート用に買ったもの。見立ては八重子姉さん。

ねえ、だけど、健司くんもおかしいと思うんだよね。高3の秋に、1日……いや半日だけ使ってふたりだけで出かけよう! ってなったのはいいけど、高尾山行ったの、高尾山。そうか、山か、と思って私はジーンズ買ったんだけど、その私を見て健司くんはガッカリしてた。山登るのに革靴履いてこないでしょ普通。

花形くんいわく「山慣れしてないが足を痛めておんぶ、とかちょっと期待してたんじゃないのか」だそうだけど、もしそれが本当なら、監督を兼任するクレバーな選手のはずの健司くん、だいぶバカだよね?

話を戻します。そういうわけで、私は健司くんと付き合い始めてからというもの、ふたりのお姉さんが色々教えてくれるものだから、じわじわと世界が広がりつつあって、それまで寺社仏閣と史跡を巡るだけが楽しみだった私には、少しずつ色んな楽しみが増えてきました。

健司くんは「もうこれ以上染まってくれるな」とか言うけど、私別に興味が引かれないものには手を出さないし、お姉さんふたりもそれはわかってて色々教えてくれるんだし、「健司くんは私が好きなの? それともなんでも言うこと聞くロリ服の女の子が好きなの?」って言ったら黙った。千代子姉さん仕込みの決め台詞でした。

だけど健司くんだって悪いことばっかりじゃないはずだよ。色恋に疎くて、好きな人は歴史上の人物、というレベルだった私は、突然距離が近くなったキラキラ顔の男の子が隣りにいるだけでパニック、手を繋ぐだけでもオロオロしてたんだけど、それをゆっくり解きほぐして、好きな人と触れ合いたいと思うのは不自然なことじゃないんだよ、と教えてくれたのもお姉さんふたり。だからチューとか出来てるんだから。

いえその……チューもやっと平気になってきましたけども……付き合い始めて軽く半年はそれすらハードル高くて大変でした。どうもあがり症というか、パニック起こしやすいんですね、私。それもお姉さんたちにアドバイスをたくさんしてもらって、おかげで受験はうまくいったんじゃないかと思う。

よく言うでしょ、姑とか小姑が鬱陶しい、とかって。別に付き合ってるだけだけど、私は彼氏のお姉さんふたりが大好きだし、仲良しだし、もし健司くんと別れるなんてことがあったりしても、お姉さんふたりとはずっとお友達でいたいなと思う。いやむしろお姉さんたちの妹になるために健司くんと結婚したいとすら思う。

それを花形くんはわざとらしいため息で一蹴、「哀れな藤真」と言って楽しそうな顔してた。

そうかなあ。私、健司くんも大好きだよ?

どうも、ご無沙汰してます。顔なんかブサイクでいいから試合に勝ちたかった藤真健司です。

おかげさまでオレの嫁こととは順調な付き合いを続けています。ちょっと倒錯気味な女子の影響でオタクがコミュ障の服着て歩いてるみたいだったですが、オレと付き合い始めてからは楽しそうににこにこよく笑う穏やかで天真爛漫な女の子になっていきました。

天然、というか、ちょっと発想やら行動原理やらが突飛だったりするのは生来の性格だと思うんだけど、恥ずかしがってろくに会話ができなかったような頃に比べると、ずっと距離は縮まったと思ってる。まあその、2度目のキスまで1ヶ月以上かかり、3度目までまたさらに3週間くらいかかったあたりで以後は色々お察しください。

だけど、オレはこの嫁ことを本当に大事に思っていて、余計な波風を立てたりせずに関係を育てていきたいと思ってるわけなんですね。あのね、本当にってかわいいんですよ。それはもう見た目とかそういうことじゃなくて、ざっくり言って「キャラクター」という意味なんだけど、これがもうかわいくてね。

秋にね、山デートしたんです。高尾山。ガチで登山だとの足が心配だったからケーブルカーとリフトだったけど、の合格祈願とオレの必勝祈願も兼ねて、ふたりで登ったの。

高尾山て、ある意味では霊山でしょ。山岳信仰の。薬王院は創建も古いし。だからそういう意味では歴史的にも興味深い場所であることは疑いようがないんだけども、はね、当日「高尾山概要」っていうレポートを予め手書きで作ってくるような子なの。オレとふたりで見ようと思って作ってきた……ってかわいすぎない!?

でもまあ、正直高尾山の歴史なんか特に興味ないわけですよオレは。だけど、せっせとレポート作ってきた可哀想だしなと思って、ちらっと話振ったりするとね、これがもうものっすごい一生懸命解説してくれるの。オレがわかるように、楽しく思えるようにって気を遣いながら。やばいかわいくない?

守ってあげたくなる、というのとはちょっと違うし、かわいくていじめたい、とかいうのも違うし、強いて言うなら観察日記を付けたくなるようなタイプ。それをあとで見返して床の上を転げ回りたい――って言ったら花形にゴミを見るような目で見られたけど、っぽく言うなら、オレは重度の「クラスタ」ってことだ。

ちなみに翔陽バスケット部では一応部の方針としてSNS非推奨の姿勢を取ってる。うちは人数が多いし、その割にみんな仲がいいし結束力もあるんだけど、顔の見えない匿名性の高いSNSと部活を結びつけた時、どこで綻びが出るかわからないので、一応ダメって言ってある。

もちろんそんなこと言ったってやっちゃうヤツはやっちゃうだろうけど、部としての方針はNGなのです。途中退部で脱落していった連中は時間が出来るのですぐにSNSを始めるらしい……なんて噂もあるから、警戒するに越したことはない。――ので、オレはやってません。

でもはやってるらしく、手持ち無沙汰になるとすぐにスマホを操作してる。ていうかニヤニヤしてる。歴史関係の同好の士と楽しんでるだけだと言うし、個人情報に気をつけなよと言ったらニックネームを使ってるから平気だと言うので、まあそこはオレの知らないのプライベートだ。踏み込もうとも思わない。

話が逸れた。

で、そんなかわいいオレの嫁ことなんですが、実は彼女には大変困ったところがありまして、これは付き合い始めた当時からずっと困り続けてるんだけど、なぜかはオレの姉ふたりに異様に懐いてるんですね。懐くっていうか、姉の方も可愛がってて、なんていうか……相思相愛。

いやいやなんでそんな凹む四文字熟語使ってんだよオレは。相思相愛なのはオレだろ。

でも本当に仲が良くて、うちの親父なんか「健司の嫁じゃなくて、うちの養女になるか? そしたら末っ子になれるぞ」なんて言い出すし、でまんざらでもない顔を一瞬するという有様で、彼氏という絶対的立場にあるはずのオレは一体どうすれば。

一応これでも仲のいいカップルだと思うんですよ。文系と体育会系だけど喧嘩しないし、お互いが好きだし、今のところチュー止まりだけど、そろそろ先に進みたいね、なんて話も出来るくらいなので、オレが蔑ろにされてるわけじゃないと思う。思い込みじゃなくて。ほんとに。まじで。

だが姉ふたりと仲良しなのが如何ともし難い……

その山デートの時も、姉の見立てだと言ってジーンズはいてきちゃって。ちょっと前まで異国のお嬢様みたいだったのに、いきなりジーンズはないだろ……と驚き、そして頑なにクラシカルお嬢様風な服を好んでいたというのに、姉の勧めならコロッとジーンズはけちゃうにガッカリもしてしまったわけです。

誤解のないように言っておくけど、オレ、は大好きなんですよ? 気に入らないのは「姉ふたりと仲がよく影響されている」という点だけなので、もちろんが自分の意思で山デートにはジーンズにしようと思ったのなら、それでいいの。だけど姉が入れ知恵しなかったらジーンズなんて思いつきもしなかったはずだし、それがなんか嫌。ていうか服どうしようって聞く先がオレの姉っていうのがほんと嫌。

……とりあえず「いいじゃんお互い嫌い合ってるより」なんて無責任なこと言わないでもらえますか。

いいですか、まず何がつらいって、姉に、ふたりもいる姉に、一体弟とその彼女が何回キスしたとかどこでどうキスしたとか、いつ体に触ったんだとかなんだとか、そういうことが筒抜けなんですよ!

でね、この姉。だいぶオープンになってきたとはいえ、まだまだカップルのあれやこれやが「秘め事」である日本人にしては異様にフリーダムで、弟カップルに早く体の関係を持てとせっついてくるくらいなのですね。ごきょうだいがいらっしゃる方は想像してみて下さい。嫌でしょう? 死ぬほど嫌でしょう?

さらにね、この姉ふたり、いや便宜上姉と言ってますが、人間ではなくてゴリラかもしれないと最近よく思うんですが、オレ、たぶんそろそろ身長が180センチ突破してるんですけど、その上毎日の部活で鍛えていて、いわゆる細マッチョだと自分では思ってるんですけど、上の姉でも下の姉でも、一対一で戦って、勝てないんですよ。

ちょっともいないことだし弱音吐いていいですか。あいつらほんとに怖いんです。

「てめぇそんなフニャパンで倒せると思ってんのか本気出しやがれ!」とか
「勝てた試しもねえのに守りに入ってんじゃねえぞ腰抜けが!」とか
が欲しければお姉様を倒してからにしろモヤシが!」とか

そういうこと言いながらものすげえ重いパンチを繰り出してくるんです。これでもオレは将来を嘱望されたバスケット選手でして、競技に支障の出る怪我はなんとしてでも避けなければならない都合上、一方的な展開で姉を倒せない以上、早々に白旗を揚げるしかないのです。

は優しい笑顔で「ほんとは手加減してあげてるんじゃなくて?」と聞いてきますが、自分を守るために戦わないという選択をしたに過ぎないのが真実です。

一度、父親に、あなたの娘ふたりは手のつけられないゴリラになってしまってるのですが、それでいいんですかと聞いてみたことがある。すると本人もスポーツ好きでアクティブなたちである父は、「気まぐれに根性論を出してみただけだったんだよ。女の子だし、千代子なんか長子だし、ほんの軽い気持ちで。だけどまさかガッチリ食いついてくるとは思わなかったんだよ……」と頭を抱えていたので触らないであげて下さい。

しかし、こんなゴリラふたりを心から誇りに思い、可愛がっているのが事もあろうに母親だ。母は生来あまり丈夫なたちではなかったそうで、父と付き合う気になったのも若かりし頃の父がかっこいいスポーツマンだったからという有様なので、娘がゴリラでも彼女は何も気にしてない。

どころか、自分の娘ふたりは「元気で美人で明るくて優しくて自慢の娘」と言って憚らないので、まあよくある話といえばそうですが、藤真家では男が肩身狭い仕様です。

ちなみに姉ふたりの印象操作もあってか、両親もに対しては好意的。それだけは感謝していなくもないけど、というよりは、これだけロクな目にあってないのだから、そのくらいの旨味はあってもいいじゃねえか、というところです。母は「ちゃんがお嫁に来たら美人三姉妹! かわいい!」と楽しそうです。

もしこのままずっとと一緒にいられて、それで結婚、なんてことになったら家族の手の届かないところにふたりで逃げたいと思うのですが、そこで邪魔になってくるのがと姉ふたりの仲良し加減ですよ。

はそれでもオレがグズると「お姉さんたちも好きだけど、1番は健司くんだよ」と言ってくれます。それに毎回コロッと絆されるオレもバカだなと思うんですが、かわいい彼女にそんなこと言われたら色々どうでもよくなるでしょ? ぎゅーってしてチューしてーってなるでしょ。

けど、実際問題はオレより姉と仲良くしてることの方が多い……

ありがたいことに、オレ、高3の実績は本当にひどいものなんだけど、都内にある某大学にバスケで進学することが決まってる。も受験頑張って志望校に合格してる。お互いそれほど遠くないし、それを見越してオレはと付き合い始めた直後から父親にひとり暮ししたいとねだりまくった。

姉ふたりとの力関係に関して父親がだいぶ同情的だったこともあって、倹約生活に務めるならという理由でそれが認められたわけなんだけど、オレはまんまとの大学にも近いあたりに居を構えることに成功しています。どうやら父は自分も避難したいと考えてのことらしいけど、それは知らん。

そういうわけで、春から誰にも邪魔されずにと過ごせる部屋が出来ます! オレが忙しいことには変わりないと思うけど、大丈夫、時間なんか作ればいいし、との甘い時間のためなら少しくらい無理をする。

どこから聞きつけたか花形の野郎が「オレ寮なんだよな、たまに行くわ」と言ってたけど、何で入れてもらえると思ってんだろうな? というか入らねえよお前の体。アパート小さいの。とオレだけしか入らないの。ふたりで横になったらもうスペース残ってないの! 横だって! キャー!

と、こういうふざけたテンションで申し訳ない。それには大変つらく苦しい事情があります。どうかこの哀れな恋する男に免じて許していただきたい。ということで現在3月、卒業式も無事に終えまして、状況的には高3の春休みです。みんな卒業旅行とかなんかでワイワイやってる。

しかしこれでも将来を嘱望された選手であるオレは4月を待たずに練習に参加することになっており、実は既に新居の準備は終わっていて、3月最終週から家を出ます。父親が「ひとりで寂しくないか、最初は少し泊まってやろうか」としつこいけどあんた家から離れたいだけだろ。

なので貴重な春休みを同級生たちのようには使えないのが現状です。去年末で引退した直後からは教習所に通ってたし、新居の準備も並行してたし、暇じゃなかった。ついでには受験でこっちも遊んでる暇なかった。ので、この春休みがのんびりするチャンスなんだけど、どうにもこうにもオレが忙しい。

むしろ学校始まってからの方が時間取れるはずだから! そしたら、いっぱい一緒にいような! オレ、もう充分我慢したと思うんだ。も少しずつ覚悟ができてきたと思うし、新しい生活新しい環境、ふたりの関係も針を進めてもいい頃だと思う。ともっと特別な関係になりたい。

そういう風にオレは心をときめかせていたんですよ。

なのに、どうでしょうか、はオレん家の前で笑顔で手を振っています。

「行ってきまーす! おみやげ買ってくるからね!」

は、姉ふたりと、温泉旅行です。

なんでだよ!!!!!!