スパダリ・ネバー・ダイ

私の彼氏はスパダリだ。

それは「うちの彼ピッピまじ最高オブ最高だし」とかいうことではなくて、本当にスパダリなのである。スパダリの定義が人により異なることはさておき、ひょんなことから付き合うことになった同じ高校の男の子がまさかのスパダリでちょっとばかり戸惑ってる。

そのスパダリである藤真健司、彼はまずとにかく見た目がかっこいい。まあその、顔がよい。

その上バスケット部の部長で、つまり主将で、部内では小柄な方でも178センチっていうイケメン身長で、髪は色が薄くてサラサラしてて、ってここまでで充分ハイスペックでしょ? これで中身がクソ野郎だったとしてもモテまくるよね。実際凄まじくモテる。モテるっていうかなんかスターみたい。

じゃその中身は? って話になるけど、これがまた部員たちに絶大な信頼を寄せられる頼れる部長であり主将であり選手であり、さらに2年生の後半から監督までやっちゃってるっていう、設定盛り過ぎで逆にキャラが弱くなりそうな状態。

成績だって悪くはない。というか成績があんまり悪いと部活に響くので、特に県大会以上が当たり前なレベルの部はきちんと成績も維持してる。それは設定盛りすぎの健司も例外じゃなくて、後輩たちに示しがつかないという理由もあってかなり頑張ってる。

というわけで、ルックス、性格人柄、勉強の3つが揃ってしまった。学校生活の中でこの他に必要なステータスってあんまりないでしょ。もし仮にすっごい汚部屋だったとしても、バレなきゃ問題ない。だから健司のハイスペックぶりはとにかく完璧。

となると、なんでそんなハイスペックの男子と付き合えることになったの? てのが当然の疑問として出てくると思うんだけど、それがこの「藤真健司スパダリ問題」の面倒なところで……

私はというと、まあ健司ほど目立つ存在でないことだけは確か。自分では普通の女子だと思ってるけど、そこは人によって評価が違うから措いておいて、校内で1番かわいいとか、モデルの仕事してるとか、そういうオプションはひとまずなし。

自称普通女子の私が芸能人と付き合うより難しいレベルと思われる健司の彼女になってしまったのには、偶然も含めたいくつかの理由がある。

ひとつには、私の自宅と翔陽の運動部寮が徒歩圏内だったということ。一番近いコンビニとか駅とかそういうものが全部一緒。そういう理由で学校の外でも顔を合わせていたんだけど、付き合い出す前には私が近所でバイトをしていて、なおかつバイト先に彼氏がいて、しかも同じクラスだった。

だから当時――2年生の1学期までの私という人物は健司にとって1番気楽で気軽で、しかも校外の彼氏持ちだから変に媚び売ってこない唯一の女子だったという前提がある。

そういう安全な女子に警戒心が緩んだ健司と、実は彼氏とうまくいってなかった私はやがて惹かれ合い、2年生の秋頃にこっそりと付き合い出すことになった――というのが大まかな経緯。

ここまではいい。それはいい。私も健司も長い時間をかけてお互いを知って、そして手を取り合うようになったから、そういう意味では安定したカップルだと思う。喧嘩もあんまりしない。というか私健司のこと普通に大好きなので。

問題はそこじゃない。

問題は「藤真健司はスーパースター」という状況そのもの。

スーパースターなんだから当然スパダリに決まってる。藤真は完璧。欠点なんかひとつもない。

そういう、世間の認識です。

そう、そんなの虚像なんです。

オレもうやだ部活行きたくない」

完全無欠のスーパーハイスペック超人こと藤真健司は、他者のイメージによって作られた偽物。

がいなかったらオレはストレスで死ぬ」

そしてその偽りの世界の重圧に苦しむ男子高校生、それが藤真健司の正体だったのです。

健司が校内でどういう評価を受けているかということはわかってるつもりだった。だけど、いざ付き合い始めてみたら翔陽高校における藤真健司というブランドは私の想像のはるか上をいっていて、当然誰彼構わず公表することも出来ないし、なんなら付き合っていない振りもやむなし。

これが他人事なら「それは大変だね、勝手なイメージで持ち上げられて期待されて〜」なんて気軽に言えたと思うけど、大好きな彼氏です。これはちょっと、いやちょっとどころじゃなく大変な問題だった。イメージって恐ろしい。

不思議なもので、みんな「藤真ってスパダリなの?」とは問いかけず、「藤真はスパダリだよね!」と断定してくる。もちろん最初は健司も実態からかけ離れてることに関しては逐一否定してたんだけど、それが追いつかなくなっててしんどい、というのは付き合い出す前から聞いてた。

というか、そういうことが重なって本当にしんどそうな時が何度もあったから、付き合う前から私の部屋でよく話とか聞いてた。寮にいてもそういうイメージの圧力に疲れると電話が来て、助けてって言い出すもんだから、つい。

彼氏いるのにごめん、ううん実はうまくいってなくて……なんて流れになったのは自然なことだと思うけど、その私が元カレとうまくいってない件が「ふざけてても怒ってもすぐに叩くから」だと知ると、本気で怒り出した。それが嬉しくて泣いちゃったのが、きっかけだった。

自分ではコントロールできないことに傷ついていたという点では、私も健司も同じだったと思う。だけど私の場合は元カレと別れて健司と付き合い始めたので、もうそういう苦痛からは解放されたけど、健司はまだその渦中にいる。助けてあげたいのはやまやまなんだけど……

「しつこい女の子にはそろそろ彼女いるって言っちゃったら?」
「言ったことあったんだけど、誰? って聞かれて答えられなかったから嘘だと思われてる」
「そっ、そうか……

彼女持ち宣言してほしい気持ちはあるけど、が彼女らしいよなんてことは知られたくない。なんかいかにも健司の彼女になりそうな目立つ女子ではないので、怖い。既に数ヶ月隠れて付き合ってるので、親しい人に「ずっと嘘ついてたの」と言われるのも怖い。出来れば卒業まで隠しておきたい。

現在3年生の1学期。インターハイの予選が目の前で余計に「今年こそ地区を優勝抜けしてくれ」とか「インターハイでもせめてベスト4に」とかいう身勝手な「期待」が増えてて、今日も健司は寮を抜け出して私の部屋に転がり込んでる。

転がり込んでるというか、私のベッドで私を抱き枕にして愚痴をこぼしている。

私の彼氏はスパダリらしい。だけどそのせいで本人はいつも余計に疲れている。

もう3年の予選が始まるので状況をなんとかしようなんていう段階ではなくて、なんとかこの健司のストレスを宥めて明日の練習に気持ちよく参加できるようにしてやらねば、と私もなかなかに責任を感じていたりもする。

「ねえ、3年の予選て1番大事な試合の前なんだし、バスケ部ちょっと閉鎖的にしたら?」
「閉鎖的?」
「関係者以外接近禁止」
「今いきなりそんなこと言ってもなあ……

私もそんな簡単に部外者を締め出して健司をバスケットだけに集中させてあげられるとは思ってない。私こそ部外者だし、私が健司と付き合ってることはバスケ部の中でも数人しか知らないらしいし。

それは健司もよく分かっていて、ただ日々のストレスがピークに達するとしんどさのあまりブチ撒けに来るというだけなんだけど。私は健司の薄茶色でさらりとした髪をゆっくりと撫でる。染めてるのかと思ってたけど、付き合い始めて間近に睫毛と眉を見たらそっちもちょっと色が薄くて、地毛だった。羨ましい。子供の頃の写真見せてもらったことあるけどほとんど金髪だった。

そういう風に外から見て自分の彼氏が作り物じみてることは自覚があるけど、その中身は普通というか、傷だって付くし痛みも感じるし、弱ることもあるんだってことはあんまり意識してもらえない。

ただ、健司は気持ちが落ち込んでない時に言うことがある。

人より得してるところ、オレはそれが多いってことは分かってる。だから余計に弱音なんか吐けない。

世間的にハイスペックとされていることは健司にも自覚があって、だけどそれを鼻にかけるような人じゃないし、自分が人より得していることを棚に上げて条件は同じだなんて言いたくない。それが健司の「気概」で、プライドで、ある意味では原動力でもある。

それを聞いた時、私は正直すっかり感心してしまって、容姿や肩書なんかよりもそういうところに惚れちゃったんだよね。だからこれだけでも私にとっては充分スパダリなので、出来る限り彼の戦いを応援したくなってしまって、それでこうして愚痴を聞いてる。

自分が人より楽をして得をしてるというなら、その分余計に努力をして結果を残さなきゃ勝ったことにはならない。顔がどうとか肩書がどうとかいうことより日々の努力があるからなんだ、って認めさせなきゃならない。だから本当は得なんかしてないんだけどね。

自分がハイスペックであることに充分自覚があって、その上に胡座をかいてる人ならいくらでもいる。そんなことないよお? なんて言いながら人が得意気になるのに生まれて10年もいらない。だけど健司はそれを上回る努力でどうでもいい評価を踏みつける道を選んだ。

私はそういう健司を守りたい、という心境に至ってしまったの。

幸運にも私の家族は私と健司の付き合いを歓迎してて、というかお母さんはイケメンで喜んでるしお父さんはバスケ好きだったらしくて、だから健司は重圧負けすると我が家にすっ飛んできてご飯食べて慰め責めにあって、最後に私の部屋でまったりして、それでやっと浮上して帰る。

部活行きたくないなんてことはもちろん嘘。だけど私にはそういう極端な愚痴が言えるから。

心にもない愚痴をグズグズ言い続けていた健司はだいぶ我に返っていて、私の首筋に軽くキスし始めた。こうして口とか手が出てくると気が済んでだいぶ浮上できた証拠。

「楽になってきた?」
「そこそこ」
「寮の誰かに連絡してある?」
「これから」

もう愚痴は出てこない。気持ちが緩んで気持ちよくなってきたのかもしれないけど、これは毎回可哀想だなと思うんだけど、哀しいかなここは私の家で部屋で、階下には両親もおりますので。

ん家って親いない時ないの」
「あんまり」
「春休みに遠征なんかなければ……普段の練習だったら……

スパダリ健司くんは彼女とベッドの上での限界がキス程度なので悶えてる。春休みにうちの親が結婚式でほぼ1日留守にしてた時があったけど、その時健司は遠征で関東にすらいなかった。

いえその、既成事実がないわけじゃない。それはそれで隙を見て。だけどストレス溜まって落ち込んだ時には毎回お泊りみたいな、そんな都合のいい話はない。

というか健司はそういうことを無理強いしない。私の元カレがちょっとアレだったもんで気遣ってくれてるってのもある。ああスパダリ。元カレに比べたらゴミとダイアモンドくらいの差がある。だから本当は思うまま甘やかしてやりたい。ほらおいで、って両手を広げてあげたい。

「でも我慢する。の親父さんに失望されたくない」

だけどほら、健司はこんないい子なので。私はそれを応援してるので。

なのに、健司はインターハイを逃し、3年生の夏を全て失った。

私は健司が予選落ちしてから国体神奈川代表に選抜されるまでの間のことを、きっと人生でワースト3に入るくらい不愉快な思い出として記憶するんじゃないだろうか。

私のスパダリくんはイケメンでバスケ部のエースで性格もよくて努力家でハイスペックを絵に描いたような人……という勝手な看板があるせいで余計に嘲笑に晒された。健司が努力を怠ったことなんかないのに、去年1回戦負けに勝てなかったとかマジで、予選落ちとかうちのバスケ部も終わりだな、そんな言葉を浴びせかけられた。

だけでなく、あまりはっきりしない彼女いる疑惑を知ってか知らずか、インターハイ飛んだから時間あるよね? と前向きな女子が寄ってきては彼を遊びに連れ出そうとした。健司は無理無理と連呼しつつ、逃げて逃げて、やっぱり私の部屋に来た。

そしてとうとう愚痴は「オレもうやだ学校行きたくない」になってしまった。

1学期の間は私も怒る気力すらなくなってて、前よりも短いスパンで逃げてくるようになった健司を慰めるので精一杯だった。このままじゃ終われない、冬の大会にも出るという主力3年生の決断は早かったけれど、健司だけでなくみんなの気持ちが浮き上がるまでには時間がかかった。

それでも健司は合宿に行き、インターハイのない夏休みの間も淡々と練習に勤しみ、私に愚痴をこぼしながらも自分を立て直してた。だけどこんな深手を負って、本当に気持ちが立ち直ることなんかあるんだろうか……そう疑う気持ちもあった。

そんな健司のもとに国体少年の部神奈川代表に選出という一報が入ってきたのはまだ夏休みの頃だった。その時は確定事項ではなくて、2学期に入り次第正式に通達、とのことだったので、実感もない私たちはまだなんとなくグズグズしてた。

で、2学期。バスケ部からは結局健司を含めた3年生3人が選出されて、1ヶ月後の国体に混成チームで出場することになった。インターハイは逃したけど健司たちが代表に選ばれたのは当然実力があるからで、それは今まで努力してきた結果で、だからバスケ部や先生たちはすごく喜んでた。

そして校内の手のひらはくるっとひっくり返った。

そもそもインターハイに出て当然の実力者なんだからこれは当たり前だ、藤真たちの練習の成果が発揮できる場所がないかと願ってた、不運続きだったけどずっと応援してた――

「国体だけじゃなくて冬だって残ってるんだから、そんなに怒るなよ」
「私も怒り過ぎかもしれないけど、健司はもう少し怒りなよ。何この手のひら返し」
「そんなもんだよ。勝てば官軍、長いものには巻かれないと」
「健司までそんなスッキリした顔してるの腹立つんだけど」

久々に機嫌のいい健司は私の頭をよしよしと撫でつつ、お土産とかなんとか言いながら買ってきてくれたケーキを「あーん」してくれてる……んだけど、私は正直腹の虫がおさまらなくて自分でもそれが不愉快だった。国体が決まるまで「バスケ部は終わった」しか言わなかったくせに!

「もういいんだよ。言いたいやつには言わしとけばいいって」
「その勝手な言葉に傷付いてはここで愚痴ってた人が何を言ってんの」

健司は自分でもケーキを口に運びつつ、可笑しそうに鼻で笑った。なにそれ。

「確かにそうなんだけど……にはいっぱい迷惑かけて、それは悪かったと思ってるんだけど」
「べ、別に迷惑なんて思ってないけど」
「いつもそう言ってくれるから、つい寄りかかっていいと思っちゃってたんだよな」

まさか別れたいとか言い出すんじゃないだろうな、とちょっと血の気が引いてた私の目の前で健司は向き直り、ちょっと息を吸い込む。なによ、怖いんだけど……

「高校に入ってから負けっぱなしで、が話聞いてくれるようになってからは余計にそういう『不運な自分』ていうものが強くのしかかって来て、自分はしんどいんだからブチ撒けなかったら壊れるって、には悪いけど愚痴らせてもらってスッキリしようって、それしか逃げ道もなくて」

今はもうそうじゃないから、私は必要なくなったんだろうか。

別れたいと宣告されたわけでもないのに私は目の前が暗くなって、付き合う前のことを思い出してた。DVってほどじゃないけど、元カレは楽しくても不機嫌でも私の腕をよく叩いた。それが痛くて何度もやめてよって言っても、痛くねえしそんなことでいちいち文句言うなよとしか言わない人だった。それを健司は「最低の男だ」と憤慨し、「は好きなのかもしれないけどオレは許さない」と言った。

もう「好き」なんて気持ちは残ってなかった。一応彼氏ってことになってる男の思い出や遠くに抱いていた気持ちよりも、健司の言葉が嬉しくて涙が出てきた。慌てた健司はどうしようもなかったのか、ごめんと言いながら軽く抱き寄せてくれて、それがスイッチになって私はぎゅっと抱きついてわんわん泣いてしまった。

こんな風に私が傷付くことを怒ってくれる人がいる、藤真ってそういう、強い優しさを持ってるんだと思ったら涙が止まらなかった。嬉しかったし、感謝したし、怖いとか嫌だなって思う気持ちの影に隠れてたときめく気持ちみたいなものがちょっとだけ顔を出した気がして。

だから健司がどれだけ傷付いても、その傷を癒やす手伝いがしたいと、思ってたんだけどな……

「国体、決まって、だけど3人しか選出されなくて、選ばれなかった仲間になんて言おうかと思ってたんだけど、あいつら、『翔陽は強いってこと、ちゃんと示してこいよ』って、嫌な顔なんかしないで言ってくれて。心の中では違ったかもしれないけど、でもそう言ってくれたんだ」

仲間の言葉で気持ちが切り替わっちゃったのか。私じゃなくて。と悪い方にばかり考えてたら、

「いくらつらいからって、オレはになんてことをしてきたんだろうって、途端に後悔、したんだ。気持ちが落ちると逃げ場にして、愚痴って楽になったら体もスッキリしたいみたいな、そういうことばっかりで。そんな精神状態ですることじゃないのにな」

健司はちょっと恥ずかしそうだ。いや別にそんなの……別れなくて済みそうで何よりだけど。

「チャンスはあったんだよ、結果を残せないことは悔しいけど、オレは、翔陽は強いって示すチャンスはインターハイだけじゃなかった。それは分かってたつもりだったけど、遠い冬の漠然としたイメージだけで、オレは目の前を見てなかった」

確かに健司は目指すものが遠すぎてどこを見ていればいいのかわからなくなってた。だけどこっちだよと手を引いてやることは私には出来なかった。それに、愚痴って言ってもバイト先の店長の愚痴に比べたら健司のなんか大したことなかったんだけど。だから出来てただけだったんだけど。

「愚痴を聞いてくれて甘やかしてくれるからのことが好きだったわけじゃないって、ごめん、今更そんなことに気付くなんて。だからもう、言わしたいやつには言わしとけ、そういうブンブンたかってくるハエみたいなもの、のところにまで持って来たくないって」

健司に纏わりつく全ての鬱陶しいもの、それをハエに例えられた私はつい吹き出した。そうだね、うるさいしいつまでもくっついてくるし、ウザいよね。

「そういうの叩き潰して先へ行こうって、思ったから」
「でも本当につらかったら、その時は」
「だからそれも。オレばっかり寄りかかるんじゃなくて、一緒に叩き潰せばいいよな」
……うん」

にっこり笑った健司の穏やかな笑顔の向こうに、何度叩き潰されても立ち上がろうっていう強い意志を感じた私はまた泣きそうになった。健司は決して粗暴なタイプじゃないけど、駅前で通行人をビビらせて楽しんでるような人たちよりも強い。あまりにも強い。

顔のせいでアイドルじみた扱いを受けることも多い健司だけど、その中にはこんなに強い彼の魂みたいなものが隠れてる。私は容姿とか肩書なんかより、健司のそういうところが好きなんだなって、改めて思った。

「だから愚痴はやめたいんだけど……
「だけど?」
「甘えるのはいい?」

気持ちが目一杯好きになってるのに、至近距離でそんなこと言われてやだって言えるわけないでしょ!

ケーキの甘さが残るキスに私がトロトロになった、その2日後。普段通り登校してきた私は廊下で女子に囲まれている健司を無視して教室に向かおうとした。女子たちは国体の会場のことを聞いてる。まあ、応援してくれる人が多いのはいいことだよね。健司だけじゃなくて、代表選手みんな喜ぶ。

国体のトーナメント、休みに当たれば私も見に行きたいな。顔隠してればバレないよね〜。なんてことを考えて通り過ぎようとしていた私は、体の左側に衝撃を感じて慌てて顔を上げた。

「おはよ、
「は!?」

目の前に健司の顔があって、彼の腕は私の体をぎゅっと抱き締めていて……何やってんの!?

困惑の朝の廊下に蒼白の私とニコニコ笑顔の健司。

「あ、れ…………
「あれ、言ってなかったっけ? 、彼女! な!」

な! じゃないだろ!!! 乾いた笑いしか出てこない私は冷や汗が出てきた。

「一緒に叩き潰す」って、そういうこと!?

わ、私の彼氏はスパダリで……スパダリなんですけど……つらい!!!

END