プライベート・ナース

「鬼の霍乱だ!」
「嬉しそうだね信長」
「いやちょ、そんなことないですて。誤解を招くようなこと言わないでください」

誰がどう見ても風邪の方が逃げていきそうな牧が珍しく風邪を引いた。古くは夏に日焼けをしていると風邪を引かないという俗説があったくらいだから余計にそう見えていたけれど、焼けていても引く時は引く。ただ、同学年の部員たちの証言によれば、牧の風邪は実に1年生の時以来だという。

「水分補給、栄養剤、冷却シート、トローチ、保湿ティッシュ、後は?」
「今朝病院行ったらしいから、薬はあるよね」
「風邪の時はアイスっしょ。オレはガリガリ君一択っすね」
「聞いてない」

寮に入っている牧の元へマネージャーであるが救援に向かうと決まったのは、昼ごろのことだった。本人が久しぶりに風邪を引いてしまって不自由しているとヘルプを寄越したので、代表でマネージャーが行くことになった。というか、なりふり構わずヘルプを寄越すのですら、牧らしくない。本当につらいのだろう。

海南大附属高校運動部の寮は最近老朽化による建て替えの真っ最中で、本来の場所より離れたところにいくつも部屋を借り上げている。そのせいで寮生の生徒たちは管理の手の届かないひとり暮らしを強いられている。

いわば部長お見舞い代表のは、部員たちがお見舞いの代わりとして集めた支援物資をバッグに詰めている。それを手伝ってるのがと同学年の神、手も貸さずに口だけ出しているのが1年の清田。今年3年生にはマネージャーがいないので、必然的にこういう役割は、ということになる。

「アイスくらいなら牧さんが欲しいって言えば買いに行くからいいよ」
「けっこう重くなっちゃったな。持てるか?」
「背負っちゃうから平気。どうせ全部牧さんのところに置いてくるんだし」
、ちゃんと牧さんの言うこと聞きなよ」
「神はさりげなく失礼だよね」

この場合は神の方が正しい。は明るく素直で元気なマネージャーだが、おっちょこちょいというか、一生懸命な割にトラブルに見舞われることが多い。大人しく支援物資を置いて帰ってくるだけで済めばいいが、生憎部長は下級生に色々な意味でとても愛されていて、が暴走しないとは限らない。

「大丈夫だって。牧さん具合悪いんだよ、お邪魔したら悪いでしょ」
「わかってるようでわかってねえもんな、先輩は」
「失礼な!」

清田のほっぺたをつねりあげると、はバスケット部の備品であるバッグを斜めに背負い、神から寮の地図を受け取った。駅は3駅離れているし、寮は駅から少し歩くので、神の自転車を借りるということもできない。

「あの辺り、日が落ちると人がいなくなるから、遅くなるなら連絡しろよ」
「大丈夫だって! 心配性なんだからもー」

そう言いながらは意気揚々と学校を出て行った。

自信満々で牧の救援に向かっただったが、牧の住むマンションに辿り着いた時には、もう日が傾き始めていた。もちろんまだ明るいけれど、牧のマンションは古く、ベランダが南東に向いているため、逆にエントランスは既に暗くなっていた。団地のような佇まいのマンションで、もちろんエレベーターはない。

牧の部屋はC棟Aの3。つまり左右一対の3棟目の3階左側ということだ。は薄暗いエントランスから重い荷物を背負って黙々と階段を登る。マネージャーでも一応運動部所属なので、体力はある――はずなのだが、学校を出て既に1時間半、ほぼ歩きなのと荷物が重いせいで疲労がハンパない。

しかし部長のお宅にお邪魔するのに息が上がっていては申し訳ない。は牧の部屋の手前で息を整える。ついでにバッグを下ろして制服も払い、髪も整える。ついでについでに自分のバッグの中から鏡を取り出し、薄っすらグロスなんかつけてみる。

要するに、牧はにとって憧れの人なわけだ。

だから部員たちが気を利かせてを送り出したともいう。練習を休んで行ってこいと言われても困るので、その方が都合もいい。はすっかり身支度を整えると、少し震える指先でインターホン、というよりチャイムを鳴らした。まさに「ピンポーン」という音がする。

しばし間を置いてから、ガタガタと音がして、鉄製の薄緑色のドアが軋みながら開く。

「悪い、助かった、気がついたら悪化しててどう――!?」
「はい、代表で参りました。お加減いかがですか」

誰か同学年の部員でも来てくれるものと思っていたらしい牧は制服姿のを見て目を丸くした。は牧の声にぺこりと頭を下げたのだが、その目の前でバタンとドアが閉まった。

「牧さん!?」
「ちょっと待ってろ、まだ入るなよ!」

また少し間があって、ようやくドアが開いた。牧はなんだかぐったりしている。

「誰が来るのか連絡くらいくれよ」
「すみません……あっ、私何も見ません触りませんよ!」
「いやそうじゃなくて、服着てなかったから」
「風邪引いてるのに裸で寝てたんですか!?」
「裸じゃない! その、下がパンツだけだったから。てか大声出すなよ」

玄関に入れてもらったはぺこぺこと頭を下げ、支援物資の入ったバッグをどさりと下ろした。

「重そうだけど、ひとりで来たのか」
「はいもちろん。みんな練習がありますからね。でも中身はみんなからですよ!」
「悪かったな、こんな重いもの。しかもここは階段だし」
「自分では体力あると思ってたんですけど、全然ダメというのがわかりました」

しょぼくれるの頭を牧はくしゃくしゃと撫でると、荷物を抱えてよろよろと部屋に戻る。は慌てて靴を脱ぎ、荷物を一緒に支えて牧の後についていった。マンションとは言うが、雰囲気としては団地のようだ。184センチある牧には少し狭く感じるのではないかというような間取りで、薄暗かった。

散らかってはいないが、そもそも散らかすほど物がないような、そんな感じだった。家具などもほとんどない。ベッドにテーブルに机があるくらいで、作り付けの収納だけで間に合っているらしい。

「牧さん、具合はどうですか。みんな心配してますよ」
「一応薬はもらったんだけど、劇的に効いてはくれなかったよ」
「欲しい物とかありますか。信長がガリガリ君ガリガリ君ってうるさいんですけど」
「いや、大丈夫。そんなに食欲ないから」
「えっ、大丈夫ですか!? まさか朝から食べてないなんてことは」
「少しは食べたよ、薬飲まないとならないし」

支援物資をテーブルに並べているにぽつりぽつりと返しながら、牧はぐったりと座っている。テーブルの上には処方薬の袋がいくつも散らばっていて、水の入ったコップが置いたままになっていた。

「熱はどうですか、咳や関節痛なんかは……
「熱は病院で測った時38度2分だったな……咳は今のところなくて、関節はちょっと痛い」
「気持ち悪いとかお腹の具合がとか、他にもお困りのことはありませんか」
「うーん、実は風呂を洗ってなくて洗濯も溜まってる」

熱もあるのだし、とんでもなくだるいのだが、後輩がわざわざ重い荷物を抱えてやってきてくれたので、牧は少し嬉しかった。なので、ちょっと気分がいいものだから、彼にしては珍しく冗談を言ったのだ。だが、珍しいのでそれが冗談だとは気付いてもらえなかった。

「わかりました!!!」
「えっ?」
「牧さんはしっかり体を休めてくださいね。他にもあるようでしたら思い出しておいてください!」
「いや、ちょ、、そうじゃな――

はもう風呂場へ急行していた。ガチャンバタンと風呂の戸を開け閉めしている音が聞こえてくる。ほんの冗談のつもりだった牧だったが、風呂を掃除していなかったのも洗濯が溜まっているのも本当だった。風邪で気力が萎えているので、まあいいかという気になった。

だが、ベッドに横になった彼の耳に聞こえてくるのは、ガチャンバタンの繰り返しと「うわっ」とか「あっ」とかいうの短い悲鳴、そして物が落ちる音、倒れる音。寝られない。体を起こしてテーブルの上にあった栄養剤をもらって飲んでみるが、ガチャンバタンが続いていて、落ち着かない。

それでもの厚意と思い、黙っていると、洗濯カゴを抱えたがよろよろと出てきた。洗濯は普段マネージャー業務で慣れているから問題ないだろうと思っていた牧だったが、やはり熱で頭が回らなくなっていたらしい。この洗濯物は私物であって、ということは下着も入っているわけで。

ちょっと待った!!!」
「牧さん、寝てなきゃダメですよー。それとも何か欲しいものありますか?」
「いやそうじゃなくて、それ、オレがやるから、いいよ、その辺置いといてくれ」
「何言ってるんですか。こんな時なんですから、気にしないでください。使えるものは使いましょう!」

牧の制止虚しくはベランダに出るとピシャリと窓を閉めてしまった。牧はがっくりと頭を落とす。使えるものは、ってお前あんまり使えなさそうじゃないか。後輩の女の子にパンツ干してもらったとは考えないようにしよう。牧はもう既に夕方なのに干すのかというツッコミも飲み込んだ。口は災いの元。

諦めて横になった牧は、冷却シートを取って、貼ろうかどうしようか迷っていた。38度台なんて子供の頃以来なので、熱い体が不快だった。しかし、額に貼っただけで改善されるかどうかは怪しい。そこへなんだか得意げな顔をしたが戻ってきた。

「おお、ありがとな、もう――
「貼りますか? 貸してください」

また有無をいわさず冷却シートを取り上げられた牧は、にシートを貼ってもらう羽目になった。が、はきれいに貼れなくて、何度も貼り直し貼り直し、ちゃんと貼り付けられた頃には冷却シートはの手の温度でぬるくなっていた。

「さっき関節痛いって言ってましたよね。マッサージしましょう!」
「え、いいよそんな、疲労で痛いわけじゃないんだから」
「牧さん、手当てというのは手を当てて撫でる様から来た言葉なんですよ」

は完全に調子に乗っている。牧はもう苦笑いするしかない。ごろりとひっくり返された牧は、に撫で擦られるままになっていた。下手ではないのだが、少々荒い。ついでに言えば、熱でだるいので、マッサージされると肌が温まって、より不快感が増す。

だが、正直なところ、が自分に懐いているのはよくわかっているので、それを思うと無下にできない。

「すまん、ちょっと熱くなってきたから、もういいよ」
「わ、気が付かなくてごめんなさい。ちょっと待っててくださいね!」
「えっ」

マッサージをやめてもらえればそれでよかった牧だが、はキッチンへすっ飛んでいって、絞ったタオルをたくさん持ってきた。嫌な予感がした牧は、肌がけの端をギュッと掴んだ。

「清拭しますね!」

やっぱり。牧はどうやって断ろうかと一生懸命考えたのだが、熱のせいでまとまらない。しかし、冷たいタオルで背中や首を拭いてもらうと気分がよかった。正直恥ずかしいことこの上ないのだが、牧はまたこれも先輩の務めと自分に言い聞かせた。

牧が大人しくされるがままになっているので、はますます調子に乗ってきた。

簡単な清拭らしきものが終わると、はまた牧をひっくり返して肌がけをかけ直し、満足そうな顔をしながら、子供を寝かしつける時のように牧の腹のあたりをぽんぽんと叩き始めた。さすがに牧は吹き出し、の手を取って止めた。

、子供じゃないんだから。余計眠れないよ」

牧はもちろん優しく言ったのだが、はようやく我に返り、大いに慌てた。

「ごめんなさい、すみません、あの、私、つい」
「怒ってないよ。色々やってくれてありがとう」
「そんな、私、何も、お役に立てなくて――

牧に手を取られたまま、はがっくりと俯いて肩を落とした。

「そんなことないって。こんな風邪引いたのしばらくぶりだから、本当に困ってたんだ。来てくれて助かったよ」
「うう、牧さぁん」

そろそろ帰らせなきゃいけないと考えていた牧だったが、掴んでいるの手が暖かくて、熱で不快なはずなのに、それだけはなぜか心地よくて、急に眠くなってきた。

、この辺りは暗くなると人通りがなくなって危ないから、日が落ちる前に帰ってくれ。なんならもう少しここにいて、神に迎えに来てもらうとか、とにかくひとりで帰らないようにしてくれ。今日はありがとう、ちょっと驚いたけど嬉しかった。こんな風邪、早く治して復帰しないとな。

そう思っていた牧だが、一言も口にできないまま、の手を掴んだまま、眠りに落ちた。

かくりと頭が落ちたような感覚を覚えて牧が目を覚ますと、あたりは真っ暗になっていた。キッチンにだけ明かりが灯っていて、ベッドのある部屋は自分の足元も見えないほど暗くなっていた。が、首を捻った牧は、すぐそばにの寝顔が乗っかっていたので、一瞬で完全に目が覚めた。

眠りに落ちる前のことを思い出してみる。確か帰れと言ったような気がしたのだが――

枕元を探って携帯を引き寄せると、19時半というところだった。もう少しで神のシュート練習が終わる頃だろう。そうしたら連絡を入れて迎えに来てもらわなければ。牧は熟睡してずいぶん楽になった体を起こして、も起こそうと手を重ねた。が、の手はつめたく冷えていた。

目が慣れてきて、キッチンの明かりだけでも部屋の中が見えるようになってきた。は、ベッドサイドに制服姿のまま座って、頭と右手だけをベッドの上に載せて眠っていた。そっと肩に触れてみると、制服のブレザーもつめたくなっていた。スカートから覗く足が青白いような気もする。

2年生までは海南の寮があったのだが、よりにもよって3年の年に建て替えになってしまった。そのせいで寮生はそれぞれ学校が借り上げた寮へと散らばっていった。このマンションも悪くはないのだが、何しろ古いし、日当たりも悪くて、こうして冬でもないのに部屋が冷たくなりがちだった。

そのせいで風邪を引いたんじゃないかと牧は考えていたが、もしそうだとしたら、こんな風にが冷たくなってしまっているのはマズい。しかも女の子なのだから、余計にマズい。

牧はベッドを滑り降り、額の冷却シートを剥がすと、傍らにしゃがんでの肩を掴んで揺り動かした。

、すまん、気づかないで。お前も風邪引くぞ」

急に揺さぶられたは、ぐらりと傾いて牧の胸にぺたりと寄りかかる形になった。急に密着したのでどきりとした牧だったが、は目を覚ますと、そのままギューッと抱きついてきた。寝ぼけている。

「牧さーん」
「お、おい、何を寝ぼけて――
「牧さん大好きー」

寝ぼけたの言葉に、牧はへなへなとその場に座り込んだ。懐かれているのはわかっていたけれど、そういうことかよ。いや待て、オレになんか物をもらうとかそんな夢を見てて、それで寝ぼけてるんじゃないか。落ち着け、きっとは寝ぼけているだけで、オレを本当に好きとかそんなことはたぶん、ないはずだから。

ドキドキが止まらなくなってしまった牧は、しかしそれを無視してを揺り動かした。

、しっかりしろ」
「はっ、牧さん、あれ、夢?」
「こんなに体冷たくなって、なんともないか」

やっと覚醒したは、一瞬の後にバッと勢いよく牧から離れると、息を呑んでベッドにへばりついた。

「わた、私、あの、今」
「寝ぼけてたんだろ。そんなこと気にするな。それより体冷えてるから」

まさか風呂に入れとは言えないので、自分が出るからベッドに入って少し暖を取れと言いたかった。そのつもりでの肩に手をかけたのだが、その瞬間がびくりと体を震わせて、そのまま口元に両手を当てると縮こまってしまった。――ええと、あれ、まさか。

キッチンの方から差す白っぽい光での頬が片側だけ白々と照らされている。薬が効いたのかの「手当て」が効いたのか、関節の痛みはもうなかった。熱っぽさはあるけれど、不快なほどではなくなっていた。牧はそっと手を伸ばしての頬に触れてみる。冷たい。

冷たいの頬が赤く染まり、少し震えている。

、その、さっきのは――
「ごめんなさい、もう言いません、忘れてください、ごめんなさい……

じわりとの目に涙が浮かぶのを目にした牧は、頬に置いていた手を滑らせて勢いよく引き寄せ、抱き締めた。が腕の中で短い悲鳴を上げたけれど、構わずに締め上げた。冷たい制服が徐々に温まっていく。

――怒ってないだろ。さっきの、本当か?」

鎖骨のあたりでの顔がかすかに頷く。牧は頭を落とし、の髪に頬を擦り寄せる。

、ありがとう」

を好きだと思ったことはなかった。だけど、嬉しかった。救援に来てくれたことも、あんまり使えそうにはなくても色々助けてくれたことも、好きだと思ってもらっていることも。それは簡単に「好き」に変わるはずだ。牧の声にの腕が伸びて、ぎゅっと抱きついた。

「もう暗いから早く帰れって言おうと思ってたんだけど、もう少し、いてくれないか」
「は、はい。あの、添い寝とかしましょうか」
「あのな、そんなことされたら余計眠れないんだけど」

やっぱりすぐに調子に乗ったのおでこにキスして、牧はくすくすと笑った。添い寝も何も歓迎だけど、自分が風邪を引いているうちは全て却下だ。また、不本意だけれど、誰かに連絡をして迎えに来てもらわなければ。あれもこれもそれも、全部全部、風邪が治ってからだ。

が夕食を用意してくれるというので、牧はその間に神に連絡を取った。おそらくまだ学校にいるはずだし、帰ってしまっていても彼は自宅が学校から遠くないので、このマンションまででも来られるはずだ。

「具合どうですか」
「薬効いたみたいで今はだいぶ楽だよ。それで神、悪いんだけど――
「それがオレ、今日の昼あんまり練習できなくて、まだ終わらないんですよね!」
「お、おう? そうか」
「なので迎えには行きますが、かなり遅くなりますよ! ゆっくりしててください!」

まだ何も言ってないのに。

……お前、読んでたのか」
「そういうわけでも。ただずっと連絡ないし、じゃなくて牧さんから来たってことは、と思って」

読みが悪いとかいうことでなしに、神は清田のように野生の勘が働くタイプではない。その神がこんな風に言うからには、が牧を慕っていたことは、本人だけが知らないことだったに違いない。牧はせっかく薬が効いて熱っぽさが取れているのに、顔が熱くなってきた。

「風邪引いた時くらいいいじゃないですか、のんびりすれば。いっそ泊まればいいのに」
「うつるだろうが」
「そこが惜しいとこですよね。じゃあこっちを出る時にご連絡しますので、それまではどうぞ存分に――
「神!!!」

けたけたと笑う声が遠ざかり、通話は切れた。

「神がどうかしたんですか。あんまり大きな声出すと喉痛くなっちゃいますよ」
「いやその、楽しそうにからかうもんだから。遅くなるけど迎えに来てもらうよう頼んだから」
……私泊まります」
「やめなさい」
「えー」
「えーじゃない」

の用意してくれた食事を突きつつ、牧は頑としてや神の甘い誘惑に抗った。

「何にもしませんよ。牧さん風邪で大変だから、ほら、私を看護師さんだと思って」
「看護師さんはそんなことしません」
「牧さん専用の看護師だからいいんですよー」
「そんなものいりません」
「あっ、ひどい」
「可愛い後輩の彼女なら欲しいけど看護師はいらないよ」

が引き下がらないので、牧はにやりと笑ってそう付け加えた。ぶわっとの顔が赤くなる。

「ちゃんと治すから、そしたら、またおいで」
「は、はい、来ます、いつでも来ます!」
……今度は、泊まってもいいから」

言ってから牧も顔が赤くなった。

END