マルチ・サプリメント

「風邪ひいたー。今日休む」

朝イチで届いたからのメッセージを見た神は、ちょうど朝練を終えたところで、おやっと首を傾げた。確か昨日の夜までは元気だったのに。確かにはあまり体が丈夫ではないけれど、だからこそ体調には気を付けていて、風邪をひくなんて珍しいことだった。

「大丈夫? ひとりなんじゃないの」
「さっきまで親いたけど今ひとりだよ」
「昨日はなんともなかったのにね」
「そんなにひどくないから平気。でも寂しいー」

神とは付き合い始めてまだ2ヶ月足らず。とはいえ海南に入って同じクラスになって以来の付き合いだから、お互いのことはよく知っている。その上、お互い両思いとは知らないまま半年以上片思いしていると思っていただけに、仲はいい。

だからは寂しいし、神は余計に心配する。

しかも、今日は珍しくバスケット部の練習がないので、デートしようという話になっていたのに。

「いつまでひとり?」
「たぶん20時くらいまでかな」
「じゃあ練習終わったら行っていい?」
「待ってる 超待ってる 早く来てー」

部活自体がなくても、神の個人練習はある。授業が終わってからひとりで練習をして、それからの家に行っても少しくらいならふたりで過ごせる。一応お互いの親も付き合っていることは知っているし、それに悪い顔をされてはいないけれど、誰もいない家でふたりきりというのはさすがにマズい気がする。

神もも真面目な性格なので、何もやましいことがなくても、疑われるようなことはしたくない。20時頃に親が帰ってくるなら、それがタイムリミットだ。練習も大事だが、も心配なので、今日の練習は出来るだけ手早く終わらせよう。

神は部室でとやりとりをしながら、そう考えていた。

授業が終わり、急いで向かった体育館で練習をした神は、また急いで着替えると学校を出ての家に向かう。どんなに急いでも自転車で30分ほどかかってしまうが、まだ日も高いし、からもっと親が遅くなるかもしれないと泣きことのようなメッセージが入っていた。

途中海南最寄りの駅前を通り過ぎた神は、思いついて逆戻り、エキナカでの好きなカフェのフルーツゼリーを買い、また自転車を飛ばした。本当ならこのフルーツゼリーを一緒に食べる予定だったのだが、仕方ない。場所がカフェからの家になっただけと思えばいいか、と神は考える。

の家に到着すると、自転車を邪魔にならない場所に停めつつ、連絡を入れる。

「早かったねー」
「急いで練習終わらせてきた。あとこれ、行かれなくなっちゃったから」

ドアを開けてくれたと一緒に玄関に入ると、神はフルーツゼリーの入った箱をひょいと掲げる。マスクをしてだるそうな顔をしていたの目がきらきらと輝き出す。風邪なんかひいてしまったから、デートは諦めていたのに。咳き込みつつ、は箱を受け取る。

「嘘、嬉しい、ありがと、どうしよ、超嬉しい」
「出かけられないけど、一緒に食べよ」
「もー、宗一郎、大好きー!」

苦しそうだったが、は箱を持ったまま神に抱きついた。神はの背中を撫でてやる。

「風邪の具合はどう? 昨日までなんともなかったからびっくりしたよ」
「それがね、昨日の夜大変だったの」

神はの背中を押して家の中に上がり込む。の部屋に入ると、スッとした植物のような匂いが鼻を突いた。半ばセルフ・メディケーションが趣味になりつつあるのことなので、風邪症状を和らげるアロマか何かを使っていたのだろう。

「あ、匂う? 今窓開けるね」
「いいよ、大丈夫。いい匂いだよ」
「ほんと? これはユーカリ」

それでも一応風邪っぴきの部屋である。リビング辺りから運んできたであろう大きな空気清浄機がクローゼットの前にどんと置いてある。はそのスイッチをいれると、神と並んで座った。神はフルーツゼリーと一緒に買ってきたフレーバードティーも出してやる。または目がきらきらし始めた。

ゼリーと紅茶を買ってきたカフェはいかにも女の子が好きそうな佇まいのオーガニック製品のみを扱う店で、なんのこっちゃよくわからない神はに連れられて入店、しかし若干の居心地の悪さに反して食べ物飲み物は全ておいしくて、母親におみやげで買って帰ったらものすごく喜ばれた。

それを機に神もその店が気に入ってしまい、時間が出来るととふたりで行くようになった。そんなわけで、の影響で神もアロマだのオーガニック食品だの自然派コスメだのに詳しくなってしまった。それを言いふらした覚えはないのに、なぜか部内で乙メン扱いになっているのが少し困ったところだ。

「それで? 昨日の夜どうしたの」
「うん、いつもの姫ちゃんなんだけどね」

それを聞いて神はちょっとげんなりした。姫ちゃんはの妹のあだ名で、のプライベートを騒がせるのはだいたいこの姫ちゃんが原因だ。とは言っても、姫ちゃんがトラブルを持ち込むというわけではなくて、この姫ちゃん、ちょっと脳のリミッターが外れでもしたかのような万能の人なのである。

「今受験生だから頑張って勉強してるんだけど、夜中に胃痙攣起こしちゃって」

脳のリミッターが外れている姫ちゃんは加減というものを知らない子で、何にでも全力投球だが、肉体は凡庸な人間のそれなので、たまにこうして体の方がもたなくなって壊れる。

そこまではいいのだが、問題はの祖父母である。姫ちゃんは人外レベルだが、以下その他の家族は全員平均的な日本人だ。そのせいか、祖父母は突然変異で現れた姫ちゃんを神仏か何かのように崇めていて、姉のと両親はそれに振り回されているというわけだ。

しかしそこは姫ちゃんも万能の人である。普段姫ちゃんは近所の祖父母の家に寝起きしていて、暴走しがちなふたりをよくコントロールしているのだが、当の自分が倒れてしまうと抑えようがない。姫ちゃんの胃痙攣に驚いた祖父母はカッとなってたちを呼び出し、面倒を見させたということらしい。

「時間がもう11時過ぎてて、私お風呂あがりだったんだよね」

つまり間接的な寝冷えだ。救急診療に駆け込み処置をしてもらい、病院を出たら1時を回っていた。その間の髪は生乾きのままで、ヒステリーを起こしている祖父母が急かすので薄着、その後やっと眠りについたけれど、目が覚めたら風邪を引いていた。

ただ、神が見てもの風邪は比較的軽症で、1日ゆっくり体を休めればかなり回復しそうではある。

「なもんで、今日は母親が姫ちゃんのお世話係に行ってる」
「毎度のこととは言え、偉いな、

神が頭をぐりぐりと撫でてやると、はきょとんとした顔で首を傾げた。

「姫ちゃんは大丈夫なのにな。はひとりで偉いよ」

繰り返すが姫ちゃんは悪くない。問題なのは祖父母とそれに逆らえない両親だ。何しろ姫ちゃんが猛勉強をして受験を頑張っているのは、の虚弱体質を直してやれる医者になりたいからだ。だから、姫ちゃんと聞いて神がげんなりしたのも、姫ちゃん本人に対してではない。

マスクを下げたは不思議そうな顔をして紅茶を飲むと、またマスクを戻して神を見上げた。

「そんなことないんだよ。私はほら、宗一郎がいるからいいけど」
……どーいう意味?」

喜ぶべきタイミングなのはわかっているが、いまいち意味がわからなくて、神も首を傾げた。

「姫ちゃんは彼氏いないし」
「今受験だからだろ、高校入ったら出来るよ」
「女子校だよ」
「あー、うん、でもほら、姫ちゃんだって可愛いし」
「気を使わなくていいよ。姫ちゃん、あんまり他人に興味ないからね」

もはや人間の域を出ている姫ちゃんについてこられる中学生がいないのである。それに、脳のリミッターは外れているが、情緒的な部分が非常に希薄で、姫ちゃんは友達がいなくても気にならない。姫ちゃんは姉と両親程度が気楽でいいという。神も会ったことがあるが、なんだか妖精か何かを見ているような気がした。

「私は体弱いし甘ったれだし姫ちゃんみたいに出来が良くないけど、宗一郎がいてくれるから平気」
「そんなお役に立ててるとは思えないけどなあ」
「お役に立つどころか、姫ちゃんには悪いけど、ものすごくよく効くサプリみたいなものだもん」

サプリかよ、と突っ込むと、はマスクの中でけたけたと笑った。はゼリーの蓋を開けて、少しずつ食べる。やはり症状は軽いようで、味覚は正常らしい。おいしいと喜んでいる。

「だって、何にでも効くんだよ、どこが悪くなっても全部よくなるから」

ゼリーはおいしいし神は側にいるしでは上機嫌だ。人外の妹がいるせいか、は万事控えめ、わがままも言わない。ただし本人も言っているように、神にだけは甘ったれである。なぜかといえば姫ちゃんより自分を優先してくれるのは神だけだからだ。

神の方もまたには自分だけなんだと思うと、愛しさが募る。

ゼリーを食べ終えたは、大きくクシャミをした。咳はないようだが、鼻をグズグズ言わせていて、頭が赤くなっている。鼻をかみすぎたか。

「寒いんじゃないの。布団入りなよ」
「ごめん、そうする」

ベッドにのそりと入り込むに、神は布団をかけてやる。また何だかのアロマの香りが立ち上る。ちらりと壁の時計を見れば、そろそろ17時というところ。姫ちゃんのお世話に駆り出されている母親が帰ってくるまでにはまだ時間がある。神はベッドサイドで膝立ちになっての頭を撫でる。

マスクをしたままのは嬉しそうに目を細めると布団の中から手を伸ばし、頭を撫でてくれる神の手を掴んだ。高くはないようだが、熱もあるらしく、の手は熱かった。神もしっかりと握り返してやる。

「大丈夫、帰らないよ。ここにいるから」
…………一緒に寝よ」
「は?」

熱なのか照れているのか、は赤い顔をして神を見上げている。

ほんの数秒の間に神は迷った。迷ったというか、OKとNGの間でアリとナシを高速で振り分けた。何しろ一応は風邪を引いているし、万が一にも家族が帰って来ないとも限らないし、だけどそりゃあ神だってとくっついていたいのは同じ。しかし相当な我慢を覚悟しなければならない。

それでも、こんな風にふたりきりにでもならなければ甘えられないのためなら、我慢くらい。

……今日だけだよ」

今日だけだなんて、それは本心ではなかったけれど、神は一応そう言ってから、の隣に潜り込んだ。はもうにこにこである。狭いシングルベッドに並んで横たわると、はするりと神に抱きつく。温かいの体はとてもいい香りがして、神はかなりつらい。

「やっぱり何にでも効くよ。今すぐ風邪が治りそうな気がする」
……じゃあ治ってよ」
「治ったらどうするの」
「そりゃまあ、色々と」

こんなことで風邪が治ってくれるならいいのに――。神はマスクをしたままのにゆっくりとキスをして、抱き寄せた。の両腕が首に絡みついて、頭がのぼせてくるような気がする。しかしまたが大きなクシャミをしたので、神はなんとか理性を取り戻す。

「風邪治ったら、またあのカフェ行こうね」
「うん。早く治しなよ、待ってるから」

無理矢理気持ちを落ち着かせていたら、神も眠くなってきた。いつ家族が帰ってくるかわからないというのに、ふたりはいつしか眠りに落ち、薄暗くなっていく部屋の中でぐっすりと眠り込んでしまった。

ふたりの眠りが突如として破られたのは、ちょうど20時半。熟睡していた神とは、よりにもよって祖母に見つかってしまった。姫ちゃんが今日は自宅で休むというのでわざわざくっついてきた。そこでまた姫ちゃんの世話をさせようと思ってを呼びに来たらしい。祖母の悲鳴が響き渡る。

驚いて飛び起きたふたりは、祖母がキーキーと甲高い声を上げて何やらわめきたてているのをちょっとぽかんとして眺めていた。なにぶんぐっすり眠っていたので、何が起こっているのかわからない。

しかし、どうやら状況が最悪だということはわかってきた。ふたりでよく寝ていただけなのだが、この際それはもう問題ではないだろう。元々祖父母は姫ちゃん様々なのだし、それに比例するようには冷遇されている。その上親が留守の間に男を連れ込んでベッドで寝ていたなど、祖母が瞬間沸騰するのも無理はない。

驚いた母親が飛んできたが、とても庇いきれる状況ではないのを見ると、ガックリと肩を落とした。ただでさえ姫ちゃんの件で祖母はカリカリしているというのに、余計なことをしてという顔をしている。神もも、何と言ったものか言葉が出ない。何を言っても意味はないだろうし、言う気力もない。

こんな状況だが、風邪を引いてひとり文句も言わずにひとりで寝ていたが可哀想になってきた神は、まだ布団に足を突っ込んだままの手をそっと取る。はその手を強く握り返す。容赦ない罵倒の声の中で、ふたりは今までになく心が寄り添っているような気がしていた。

だが、そこに彗星の如く現れたのが姫ちゃんである。

今日も元気に脳のリミッターが外れている姫ちゃんは、喚く祖母と俯いている母親、そして姉とその彼氏が着衣のままベッドでぽかんとしているのを見て全てを把握、母親と祖母の肩を掴んで割り込んできた。

「宗ちゃん久しぶり! 今日部活なかったの」
「あ……うん、休み」
具合どう? 昨日はごめんね」
「へ、平気、大したことないよ」

平然と姉たちに声をかける姫ちゃんに祖母はまた逆上、思いつく限りの言葉でを罵り、なおかつ姫ちゃんにここを出て行けと怒っている。だが、それでビビるような姫ちゃんではない。ぎろりと祖母を睨むと、手のひらを突き出した。目の前に姫ちゃんの手のひらが来た祖母は、ぴたりと止まる。

「うるさいなあ、もう、静かにしなよ。具合悪いんだよ、寝てただけじゃん」
「寝てただけって、あなたね! こんなこと許されませんよ!」
「なーにが許されないってのよ、自分が気に入らないだけでしょうが」

喚く祖母に向かって姫ちゃんは仁王立ち、淡々と言い放つ。

は体弱いんだし、宗ちゃんは大事にしてくれてるし、どう見たってふたりで寝てただけだし、それをギャーギャー騒いでみっともないよ!」

しかしもちろん祖母も引く気はない。いやらしいいやらしいと連呼している。

「いやらしいって、そうやって自分たちだって子供作ってきたんでしょうが。何言ってんのよ。それに、にはいい旦那見つけてもらって幸せな結婚してもらわなきゃ私が困るんだよ! 邪魔しないでよ!」

姉に幸せな結婚を望むのはともかく、それで困るとは。祖母も含め、全員がおやっと首を傾げた。

「想像力ないんだから、もう。いい? 私は高校行って大学行って医者になって、世界中飛び回って仕事するんだよ! 恋愛も結婚も、私の人生には必要ないものなの! それが年取ったらどうなると思うの? あんたたちみんな死んじゃったらしか残らないんだよ! 私の面倒、誰が見るっていうの!?」

が見るということになっているらしい。神は吹き出しそうになったので、慌てて俯く。

「私はバリバリ働く、はそんな私がいてもいいよっていう旦那と結婚する、私の子供がどうのってみんなは言うけど、そこはの仕事! 運がよけりゃ私に似たのが出てくるかもしれないし」

姫ちゃんは自身の将来展望を朗々と語ってご満悦である。とうとうも俯いて笑いを堪えている。

「あなたね、まだ中学生なのよ! それをそんな考えで、学費出さないわよ!」
「いいよ! 今から志望校変えたって。私は県立だって構わないよ。どのみち大学は国立行くんだから」
「何言ってるの! 今から志望校帰るなんて許さないわよ! あの高校に行かれなかったら――
「行かれなかったら何? 私が国立落ちるとでも言いたいの? バカにしないでよ」

完全に蚊帳の外になってきた神とは姫ちゃんと祖母のバトルを、テニスの観戦のようにきょろきょろしながら見ている。やがて姫ちゃんに根負けした祖母は、言い返せなくなって家を飛び出ていった。追いかけようとした母親を姫ちゃんが止める。

「ほっときなよ、どうせ3日位でケロッと機嫌治るから」
「治らなかったらどうするのよ、勝手にかき回して!」
「自分たちが悪いんでしょ。私の県立と国立くらい、いずれペイバックがあるんだから、よろしくね」

中3とは思えない態度だが、結局この姫ちゃんには逆らえないのが家である。言いたいことを言い終わった姫ちゃんは母親を追い出し、ドアを閉めるとまだ神とが並んで座っていたベッドに腰掛けた。

「宗ちゃんごめんねえ、こんなことに巻き込んじゃって」
「いや、すっかり熟睡しちゃってたオレも迂闊だったよ、ごめん」
「いいのいいの、普段ひとりなんだから、宗ちゃんがいてくれると安心するよ」
「しかしすごいね、国立行って医者かあ」
「そう、ガバガバ稼いで私との教育費は全部叩き返してやるつもりだから」

姫ちゃんなら本当にやりそうで、神は苦笑い。すると、横でが大きなクシャミをした。

「大丈夫か、キツかったよな」
「ううん、平気、かなり楽になったから」
「そうだよねえ、プラセボ効果っていうくらいだし、彼氏が添い寝してくれたら風邪も治るのかも」

うんうんと頷いていた姫ちゃんは、さっと立ち上がると神に手を伸ばして握手を求めた。

「えーっと……
「宗ちゃん、と結婚しなよ! 宗ちゃんがずっとバスケやってても、金は私が稼いであげるから!」

満面の笑みで言い放つ姫ちゃんに、神とは今度こそ吹き出した。

「笑い事じゃないってば! 全方向丸く収まるよ!」

考えておいてね、と言い残して姫ちゃんは出て行った。彼女が暴れてくれたのでこの場はなんとかなったが、これで済むとはふたりとも思っていない。姫ちゃんの理屈はあくまでも彼女のもので、神とには関係ないからだ。

「今日は無理だろうけど、お母さんに謝らないとな」
「ごめん、私が一緒に寝てなんて言ったから」
は悪くないって。余計なこと考えないで風邪治しな」

また階下から姫ちゃんと母親のキャンキャン言い合う声が聞こえてきた。神はをぎゅっと抱き締め、またマスクの上からキスをしてベッドから這い出た。が不安そうな顔をしているので、また頭を撫でてやる。

「大丈夫、こんなことで嫌になったりしないよ」
「ほんとに……?」
「風邪治ったらまたあのカフェ行くんだろ」

またクシャミをひとつしたは、ベッドから出て神に抱きつく。

「ほんとに、宗一郎は何にでも効くね」

名残惜しいが、姫ちゃんたちが揉めてる今がチャンスである。に見送られて神は家を出た。ずいぶん遅くなってしまったし、と一緒になってぐうすか寝てしまったのは迂闊だったけれど、ぴったりとくっついて眠れたのは嬉しかった。もっとああして眠っていたかった。

とんだハプニングがあったけれど、あまり気にならない。だって、何にでも効くから。神は自転車を漕ぎながら幸せに浸りつつ、後日改めての母親に謝罪する際の言葉を組み立てていた。その時にはまたあのカフェでフルーツゼリーを買っていこう、そう思いながら。

END